Note No.6

小説置場

2016-07-04から1日間の記事一覧

「世界で一番大きな丸を」

あらすじ その国は、空中に島を戴いている。首都の真上に浮かぶ島は、信仰の対象であると同時に、国に暮らす人々の生活を支えるものでもあった。島から得られるものを糧にして、生計を立てているのである。この島は気流の関係から、生身の人間しか行くことが…

武なり

部屋の中の彼らは、静貴に示された計画を見つめている。無謀とまでは言わないが、無茶の部類であることは間違いない。絶対に出来ない、というわけではないものの、積極的に動こう、とは思えない。 何せ今まで自分たちが培ってきたもののほとんどを、無に帰さ…

慧眼

後ろから静貴を見ていた二人は、つくづく思っていた。本当に楽しそうだなぁ、と。 元々静貴という少年は、血の気が多い。基本的に直情径行、思い立ったらすぐ行動。物事の裏を読むくらいなら実力行使でかいくぐる、いささか思慮と冷静さを欠いている、という…

頂の君主

びりびりと空気が震えていた。抑え込もうと努力しているし、実際別のことを考えて気を散らしている。だからどうにか、漏れ出す程度で済んでいる。それでも完全に消し去ることは難しく、明らかに異質な雰囲気を放出していた。 もっとも、気づく人間は多くない…

覇王

その瞬間、全ての空気が塗り替えられた。 頂点まで登りつめたのは一瞬だった。しかし、それだけでもう充分だった。ソファに寝転がっていた士音は反射的に飛びおきると、静貴から距離を取った。理性や思考の存在しない、ただ本能的な行為。全身の毛穴が開きき…

Let me make the later talk

ぐっぐっと親指に力を入れると、わずかながら筋肉が沈む。しなびたじじいのくせに、未だ筋肉に多少ながらの弾力がある事実に、静貴は内心で舌を巻く。本人は「あー」とか言いながら身悶えていて、何だか見ていてあんまり気持ちよくないので、もっと力入れて…

Natural Conclusion

最も喜んだのは静貴で、一番残念がったのがカホとミオ姉妹であることは、誰の目にも明らかだった。しかし、この姉妹がただで転ぶような人間ではないことなど、誰もが承知していた。「…まあいいわ」「洋服は、まだたくさんあるんだもの」「髪飾りもお化粧道具…

Hello, lady?

「で?」 シャツのボタンを閉めさせてから、静貴は低い声で尋ねた。朝起きたらこうなっていた、という結人の説明を疑う理由はないし、大体嘘を言ったって仕方ないのだからそれはそのまま信じるとしよう。だけれど、静貴が言いたいのはそういうことではなかっ…

Come out of a dream early!

頭で考えることが好きだった。体を動かすことは嫌いではなかったし、頭をすっきりさせるにはある程度体を使った方がいいことは知っていたから、運動をしないわけではない。だけれど、体で考えるより頭で考えること―混沌の所在を見極め、整理して筋道を立てて…

The sport of fortune

その日の朝、いつものように半分寝ぼけたままの状態でベッドから起き出した静貴は、緩慢な動作で居間へと入った。ワンフロアぶち抜きで自宅としているため、居間は冗談のように広い。ダブルベッドくらいはあるのではというソファに横たわり、引き続き惰眠を…

Usual oddity

久しぶりに表の世界へ出てきた。いろいろ立て込んでいたからちょっとした息抜きに、というわけではもちろんなく、仕事の一環だった。しかし、表の世界は常に気を張っている必要はないので、楽と言えば楽だし、護衛も士音一人で充分である。 訪れた先は、国営…

「紫夜の皇帝」

あらすじ 6世紀半ば、大君の権力は増大し、国々の豪族たちは次第に力を失っていった。天皇制が定着し始めた7世紀後半には、地方豪族たちは完全にその力を失ったと思われた。しかし、地方豪族たちは密かに力を蓄え、反旗を翻す時を待っていた。歴史から身を…

以血洗血

酷い光景だった。死体なんていくつも見てきたし、むしろ自分で屠ってきた死体は両の手で数えても足りないくらいだ。だから、死体を見ただけだったら、見慣れてしまった光景の一部でしかない。 だけどやはり、これは酷い光景だ。折り重なる死体は山と積まれて…

たまゆらの

ほんの一瞬の隙が命取りになるのだと、嫌というほど叩き込まれた。実戦形式の模擬戦で、密書の奪還に成功したことを知らせる烽火があがったもんだから、ほう、と息を吐いた。それだけ。たったそれだけだったのに、次の瞬間には真上から人間が降ってきてとっ…

戊夜

(ひと殺しとして生きてゆきます) 闇に沈む建物を眺めていた潤居は、背後に現れた気配へ声をかけた。「情報のほどは如何か」「上々。隅々まで流布している。事前入手の情報とも寸分違わない」 気配は簡潔に答え、泰然としている。木の上という場所でも重心…

丁夜

(息をするように、ひとを殺す世界) 大門からやって来る気配に最初に気づいたのは、照斗だった。落ち葉を掃いていた箒の手を止めて、遠くを見据えるように視線を飛ばす。奏波が続き、二人の様子に蔓も視線を向けた。すると、大門を潜り抜けて来たらしい小さ…

丙夜

(ひとを殺しにいってきます) 相部屋に戻ると、奏波が刀を研いでいた。丁寧に、丁寧に、普段ならやらない柄紐にまで手を入れているから、潤居は理解した。たった今担任に呼び出され、淡々と言い渡された「任務」。衝撃がなかったわけではないけれど、思って…

乙夜

(こんなに立派なひと殺しになりましたよ) 焚き火の炎がゆるくなっていく。ちらちらと姿が小さくなってゆき、その内消えてしまうだろう。それに気づいた寒菊が木をくべると、炎が盛って音をたてた。蔓はぼんやりとそれを眺めている。二人は何も言わなかった…

甲夜

(はじめてひとを殺したとき、きっときみはふるえていた) 全速力で走っていた。らしくもなく土を蹴立てて、藪をかきわけて突っ走る。痕跡はしっかりと残っていただろうけれど構っていられない。やたらと広い校内の敷地が、今だけは恨めしい。小雨はただ全力…

やすらけし

細い息を繰り返す目の前の人間を、じっと見ていた。青白い顔、隈の出来た目の下、こけた頬。閉じられた瞼は固く鎖されていて、黒い目は見えない。唇はかさかさに渇いていて、かろうじて呼吸を繰り返すだけだ。 砂生はそっと手を握った。雪の日に任務へ出かけ…

愛しき

(綺麗なものになりたかった) 選んだ道を、後悔しているわけじゃないんだけれども。覚束ない足取りのままで、霙はふと考える。機械的に一歩ずつ足を踏み出しながら漠然と考えることはもやもやとしていた。振り払ってしまえばいいとわかるけど、手放すことも…

「いろは」

あらすじ 群雄割拠の時代は終焉に向かっているものの、未だ世は混迷を極める。巨大勢力同士が睨みをきかせあうこの時代、とある山奥にある学校があった。隠密に秀で、暗殺・諜報に長けたものを育てる学校は、入学試験後に合格者に新たに名を与え、各組に配属…

貴方

あなたほどずるい人を、俺は知らないのです。 今日も一人きりの一日が始まっていく。朝起きて外へ出ると、刺すような空気が纏わりつく。吐き出した息は白く、もう冬になるんだな、とおぼろげに思った。頭の中で算段するのは、冬支度のあれこれだ。保存食はど…

遠い声

いつかこの子は、私を恨むだろう。 戦場で見つけた子どもを家へ連れ帰ったのは完全な気まぐれだった。大した意味はなくて、このまま捨て置いてもまったく問題はなかっただろう。突如慈悲の心に目覚めたわけでもないし、某かの罪滅ぼしがあったわけじゃない。…

つなぐ

どうして、と問いかけるのはもう止めだ。理不尽なこの世界で、泣くことすら出来ずに立ち尽くすしかない人たちがいるのならば。喩えようもない恐怖の中、ただ苦しみだけを抱え込んだ人がいるならば。一つだって理由なんかないのに奪われるしかなかった人たち…

送る

一歩足を踏み出す。大地を突いて、錫杖が鳴り響く。空気を震わせ、辺りの全てを打ち払う。吐き出した息は白く、吸い込めば肺まで凍りつきそうだ。それでも背筋を伸ばし、真っ直ぐと歩いた。前だけを見ていた。後ろは決して振り向かない。俺はただ一心に前を…

埋む

「ここにも花が咲いたねぇ」 茶屋で喉を潤していたカバネの隣に座った老婦人が、ほう、と息を吐くのと同時につぶやく。身体の中心からほっこりと、吐き出された言葉だった。隣にいたカバネにも、聞こえるか聞こえないかギリギリの声だったから、誰かに話しか…

幸福な嘘吐き

「お前のことなんて大嫌いだ」って言ったら、お前は幸せそうに笑うんだ。 雪はもう降り止んだ。一歩ずつ固めるようにして歩いていたら、前方に人影が見えた。視線を飛ばすと、それがあいつのところに来ている客人だとわかった。その辺の行き倒れを拾ってくる…

花かげ

朝起きて、真っ先に天気を見た。すこんと突き抜けるような青空に、軽い空気、あたたかな日射し、やわらかな風。新芽の匂いもかぐわしい。 今頃最後の挨拶でもしているだろうか。末の弟は、やたらと懐いていたから泣いてしまいそうになって、こらえているかも…

待っている

首巻に顎をうずめて、毛糸の帽子をかぶったままで目をこらしている。吐く息は白くて、一瞬視界を煙らせるけれど、すぐに空気に溶けてしまうから、前がよく見える。薪を割るための切り株に腰掛けて、足をぶらぶらさせながら峠の方を見ていた。誰かが来ればい…