Note No.6

小説置場

2016-07-05から1日間の記事一覧

僕に願う

「俺が由月に撃たれたのって何回くらい?」 突然問いかけられた由月は、綺麗な形をした眉を思い切りひそめた。いきなり何を言ってるんだコイツは、という顔である。しかし、それでも無駄に記憶力のいい由月は、するりと答えを出した。「本気で撃ったのなら3…

君の知らない、僕のこと。

分解したパーツを一つずつ掃除して、組み立てなおす。シリンダーは特に入念にチェックして、埃が入らないよう元の状態へ戻した。ジクロから譲り受けたH&Tは年代ものだから、定期的な手入れが必要だ。「はー…訳わからん」 椅子の背に顎を乗せてこちらを見てい…

青し

君のためには生きられない僕を、きっと君は笑うから。 「……由月?」 扉を開くと、出て行った時と微塵も変わらない姿勢のままで座っている由月が目に入る。筋肉一つ動かすことさえ自身に禁じているように見えて、ジクロは肩に手を置いた。「もう遅いでしょう…

動き出す世界

最初に見たのは柔和な老人で、次に目を醒ました時に見たのは同じくらいの年頃の少年だった。「…お?」 明るい茶色の髪に、同じ色の瞳。小さな鼻、健康的に光る頬、大きな口。尖った八重歯が見える。ぼんやりとそんなものを眺めていたら、眼の前の少年が満面…

幕間――世界一尊大で豪然な一族の主による独白

世界はいとも容易かった。いくつか複雑で面倒な部分もあったけれど(教会のヤツラとの話し合いとか貴族どもとの食事会とか!)、概ね俺にとって世界とはあくびが出るくらい楽だった。 何せ俺は生まれた時から、自分の力の使い方をよく知っていたし、それを使…

夜明け前

行き倒れの子どもを連れて行ったのは、気まぐれだとか何か展望があったからではない。単純に、食事の時間に遅れそうだったからだ。年端も行かないあの子は、何より食事が遅れることに癇癪を起こすのだと、ジクロはよく知っていた。 もっとも、同年代(に限ら…

塵芥

あれだけが、僕の唯一の後悔だ。 部屋の錠前は、定期的に配列が変わる11桁の数字の羅列だ。メインシステムに侵入して、その配列の順番を割り出すことは容易かった。何せ、彼らが自らそういう能力を伸ばせるよう、最大限の環境を与えてくれたのだから。 部屋…

「Crossing Game」

あらすじ その国は4つの島から成っている。全てを統括するのは大司祭であり、教会が国を治めている。いにしえの時代、教会が戴く神の御使いとして地上に遣わされた者たちは、血の契約者として人々を導いた。御使いたちの末裔は、今もなお健在である。彼らは…

少年少女飛行倶楽部

訓練学校生のよく聞かれる質問ナンバーワンは「どうやって飛んでいるの?」だと思う。家族や友人しかり、学校へ行くことを知った近所の人から、学園都市在住の方々、店の人に至るまで。 要するに飛ばない人たち全員の疑問なのだ。まあそれもそうだろうな、と…

君のたより

それはとてもしんどいけれど、同じくらいに楽だったのです。 授業が終わって寮に帰る。出入り口の所に置いてある郵便受けを、いつもの習慣で確認すると見慣れた封筒が入っていた。薄いピンク色の封筒で、そういえばもうそんな時期か、とぼんやり思った。 食…

ひかりさす

痛ましいほどの、その背中。 嗚咽のようだと思った。声は乱れることなく、それ所か強ささえ感じるほど真っ直ぐとしていた。はっきりと耳に届いた。それなのに、嗚咽のようだった。実際それは、ほとんど悲鳴に近かったのかもしれない。 声にならなくとも。言…

プライド

シュウゴが風邪を引いたらしい。 防衛の授業が終わった後、用具を片付けていたらキミシマ先生に言われたのだ。「そういえばノノトが風邪ひいてぶっ倒れたらしい」と。 私としては「そうですか」と答えるしかない。大丈夫だろうか、とは思ったし、早くよくな…

昼下がりの風景

あの「ノノト・シュウゴ」とよく付き合えるね、としょっちゅう言われる。研究室に顔を出すだけではなく、休日も時間が合えば出かけることもあるし、いい本を見繕ってもらうこともある。試験前にはスパルタな補習をしてくれたり(頼んでないけど有難いので受…

Call, calling

たとえもう二度と、許されないとしても。 夢を見ているんだと、わかっていた。木漏れ日の中で、光のように笑う姿。まるで重力を感じさせず、空中に浮き上がる。空を一直線に横切って、飛んでいく影。風を味方にして、戯れるようにくるくると体勢を変える。誰…

Scene

入学式が終わって学校にも慣れ始めた頃。始めてのちゃんとした飛行の授業があって、自分たちが訓練生である、という自覚が薄ら芽生え始めた辺りだ。 授業が終わって開放された俺たちは、散り散りに寮へと帰った。しかし、俺は学校紹介の時にだけしか見たこと…

Give the gun!

控え室代わりに使っている森番小屋に戻り、ゴーグルを外した。切り取られていた視界が広がり、見慣れた風景が戻って来る。やはり、ゴーグルをしていると認識出来る範囲が狭いよな、と思った。「イチイちゃん、お疲れー」 積まれた藁に体重をかけて突っ立って…