Note No.6

小説置場

「いろは」

ひかりふる

(君に伸ばした手が) 空が暗い。森の木々に阻まれて、空は欠片しか見えない。星の一つも探せなかった。一体今何時なんだろう。夜明けまでどれくらいかかるだろう。 腹部に置いていた左手を、目の高さまで持ち上げる。ハッキリとは見えないが、小刻みに震え…

以血洗血

酷い光景だった。死体なんていくつも見てきたし、むしろ自分で屠ってきた死体は両の手で数えても足りないくらいだ。だから、死体を見ただけだったら、見慣れてしまった光景の一部でしかない。 だけどやはり、これは酷い光景だ。折り重なる死体は山と積まれて…

たまゆらの

ほんの一瞬の隙が命取りになるのだと、嫌というほど叩き込まれた。実戦形式の模擬戦で、密書の奪還に成功したことを知らせる烽火があがったもんだから、ほう、と息を吐いた。それだけ。たったそれだけだったのに、次の瞬間には真上から人間が降ってきてとっ…

戊夜

(ひと殺しとして生きてゆきます) 闇に沈む建物を眺めていた潤居は、背後に現れた気配へ声をかけた。「情報のほどは如何か」「上々。隅々まで流布している。事前入手の情報とも寸分違わない」 気配は簡潔に答え、泰然としている。木の上という場所でも重心…

丁夜

(息をするように、ひとを殺す世界) 大門からやって来る気配に最初に気づいたのは、照斗だった。落ち葉を掃いていた箒の手を止めて、遠くを見据えるように視線を飛ばす。奏波が続き、二人の様子に蔓も視線を向けた。すると、大門を潜り抜けて来たらしい小さ…

丙夜

(ひとを殺しにいってきます) 相部屋に戻ると、奏波が刀を研いでいた。丁寧に、丁寧に、普段ならやらない柄紐にまで手を入れているから、潤居は理解した。たった今担任に呼び出され、淡々と言い渡された「任務」。衝撃がなかったわけではないけれど、思って…

乙夜

(こんなに立派なひと殺しになりましたよ) 焚き火の炎がゆるくなっていく。ちらちらと姿が小さくなってゆき、その内消えてしまうだろう。それに気づいた寒菊が木をくべると、炎が盛って音をたてた。蔓はぼんやりとそれを眺めている。二人は何も言わなかった…

甲夜

(はじめてひとを殺したとき、きっときみはふるえていた) 全速力で走っていた。らしくもなく土を蹴立てて、藪をかきわけて突っ走る。痕跡はしっかりと残っていただろうけれど構っていられない。やたらと広い校内の敷地が、今だけは恨めしい。小雨はただ全力…

やすらけし

細い息を繰り返す目の前の人間を、じっと見ていた。青白い顔、隈の出来た目の下、こけた頬。閉じられた瞼は固く鎖されていて、黒い目は見えない。唇はかさかさに渇いていて、かろうじて呼吸を繰り返すだけだ。 砂生はそっと手を握った。雪の日に任務へ出かけ…

愛しき

(綺麗なものになりたかった) 選んだ道を、後悔しているわけじゃないんだけれども。覚束ない足取りのままで、霙はふと考える。機械的に一歩ずつ足を踏み出しながら漠然と考えることはもやもやとしていた。振り払ってしまえばいいとわかるけど、手放すことも…

「いろは」

あらすじ 群雄割拠の時代は終焉に向かっているものの、未だ世は混迷を極める。巨大勢力同士が睨みをきかせあうこの時代、とある山奥にある学校があった。隠密に秀で、暗殺・諜報に長けたものを育てる学校は、入学試験後に合格者に新たに名を与え、各組に配属…