Note No.6

小説置場

「まつりばやしがきこえる」

いつか、ふたたびの春に。

Scene 1――十六歳 (願わくは、花の下にて) 神社の石段をゆっくり下っている。急な角度であることに加え、日は沈み、辺りはすっかり暗闇に染まっているのだから、駆け下りていくなど確かにもっての外だろう。申し訳程度に外灯は設置されているが、足元は暗い…

夏の声 03

「僕も行きたかったよー!」 ミスドの前で落ち合った成島は、一通りの話を聞いた後そう言った。僕も遠山の家に行ってみたかった、ねえメノウ様? と相変わらず胸元からのぞくメノウ様に語りかけている。心底残念そうな顔をしているので、「またその内機会が…

夏の声 02

一通り話を聞いた俺が下した結論は二つ。一つ、スイカをもらうことには異論がないっていうかむしろ大歓迎だということ。(親にも聞いた)二つ、とはいっても量的に俺だけじゃ無理。「というわけで、成島と遠山も呼ぼう」 ドーナツを食べ終えてそう言うと、仁…

夏の声 01

終業式の後のあれこれのおかげで、しばらくは外出禁止だったし携帯も使っちゃ駄目で、それがようやく解禁されたから、久しぶりに外へ出た。本当に全然表に出られなかったのはつらい。天気が良いのが余計に嫌だった。夏休みなのに閉じ込められるって精神衛生…

きみのうた

授業が終わり放課となれば、後は連休までまっしぐらだ。世間ではゴールデンウィークなどと称されており、人によっては10連休前後の休みとなるらしい。しかし、そんなものは学生にとって縁の無い話だった。カレンダー通りに容赦なく、間の平日は登校が余儀な…

夕映

目の前のプリントにだけ集中して、ひたすら数式を解いていた。仁羽達樹はシャーペンを動かす手を止めない。真っ白だった問題用紙は、次々と展開されていく数字で埋まって行った。 いつもならば、放課後は真っ先に家へ帰るか図書室へ行くかが達樹の行動である…

午下

小テストを返却する社会科教師の声をBGMに、成島弘光は窓の外を眺めている。変わり者として有名な社会科教師のテストは、妙な問題が多い。そのため成績はあまり芳しくないようで、教室は騒がしい。しかし、弘光は気にしない。 点数を隠したり、問題について…

春眠

目が覚めると、教室には誰もいなかった。遠山静は机に突っ伏していた顔をあげると、がらんとした部屋を見渡す。その顔には表情の欠片一つない。人によっては驚く場面ではあったが、静にとっては大したことではなかったからだ。むしろ、起きてもまだ外が明る…

朝霞

クラス替えを確認してから、園田義人は気合いを入れて新しい教室に入った。時刻は朝のHRが始まる十分前。早く来ているヤツラは大体揃っていて、遅刻ギリギリの連中はまだ来ない。余裕を持って馬鹿話を展開するには丁度いい。「おっはよー!」 教室に入り、真…

歓天喜地

眼前を埋め尽くすほどの花びら。溢れ出して止まらない光。目もくらむほどの、世界を震わす、ような。 名前を呼ばれて振り向く前に、背中に思いっきりぶつかられる。一気にバランスを崩して、そのまま床に倒れこむ。衝撃の主を背中に乗せたまま。「見て見てー…

身を知る雨

大事な人なんて要らなかった。 大切なものなんて欲しくなかった。 それまでずっとシンプルに生きていたつもりだったし、これからもそうしていくんだろうと思っていた。余計なものなんて何も持たないで、何も望まず何も願わず、そうして生きていくんだと思っ…

Out of tune!

お前に泣かれると困る。 端的に言うと、驚いた。それからものすごく慌てた。柄にもなく本気で慌てふためいて、飲んでた紅茶を噴き出す所だった。ただ、当の本人が俺より驚いているもんだから少し落ち着いた。「うお、何だこれ」「…こっちの台詞だ、馬鹿野郎…

まるくおちゆく、

こんなにきれいなものを、ぼくはほかにしらないのです。 ぼろぼろ、と零れていく。端から盛り上がって、まあるく落ちてゆく雫を僕は眺めています。目尻を赤く染めて、小刻みに呼吸を繰り返しながら、頬をゆるやかに流れてゆく雫を見つめているのです。 どん…

ベリーベリーストロベリー

委員会の先輩に伝言なんて、簡単だと思ってた。伝える相手があの仁羽先輩だとわかるまでは。 最初に友人連中に助けを求めたけど、爽やかな笑顔で見捨てられた。委員会の後輩、先輩、同学年も全滅。みんなやんわりと、だけどしっかりと完全拒否だった。私が逆…

ハッピー・デイ

誕生日にこだわりがないと言えば嘘になるし、っていうかむしろこだわりは強い方だと思う。だって、自分から口に出さないでも気にかけてもらっているかどうかがわかる珍しい日だったから。 朝起きてメールをチェックすると、友達から一通メールが来ていた。午…

ヘブンズゲートは見えたかい?

自分でもイメージが貧困だとは思った。一面の花畑を進むと、ごろごろと石の転がる河原に出て、目を凝らしていたら去年死んだおばあちゃんがこっちに来るなと手でも振ってるんじゃないかと思ったくらいだ。だけどそんなことはなくて、見えているのはふわふわ…

最初で最後の言葉にしよう

白い床に白い壁に白い天井は、精神衛生上よくないのだと思って仁羽達樹はいらいらと足を揺する。隣に座っている、くるくるとした茶色い髪を持つ成島弘光は、ピンク色のうさぎのあみぐるみを両手で握り締めている。真っ直ぐと立って前を見ている遠山静は、無…

Call my name

「何馬鹿面してんだよ」 高圧的なその言葉が誰のものかなんて、顔を見なくてもわかっている。 今度の遠足スタンプラリーの班編成を行うという段になって、いつもなら率先してグループ作りを行う俺は、椅子に座ったままだった。予想通りというかなんというか…

はぴ、はぴ、ばーすでー

クリスマスまであと二週間、という時期だった。瑞原商店街もささやかながら活気づいているこの時期、人混みを避けた俺は裏通りに入った。普段あまり通らない上、クリスマスソングが流れている中裏通りを通るのもなかなかわびしいなぁと思いながら歩いていた…

a festive mood

遅い夕食を取ろうと入ったラーメン屋で、ついていたテレビにわずかながら顔を曇らせる。それを目ざとく見つけたのは仁羽で、注文を終えると世間話の一端のように、するりと尋ねた。「嫌いなのか、お前」「え? なに?」 何の話をしているかわからないらしく…

スマイル、フレンズ!

家にやって来たのは三人の男の子だった。一人だと思っていたので、素で驚いた。出迎えに玄関まで行ったら、弘光はきらきらとした笑顔を浮かべて「おねーちゃん、ただいま!」と笑った。かわいい。 弘光は、後ろからやって来た男の子に私のことを紹介し、続い…

ハロー、フレンズ!

朝起きると、何やら甘い匂いに家中が満たされていた。まさか久々にカレンダー通りの休日がもらえた娘のために、張り切っているわけでもないだろう。はたして今日は何があったっけ、と思いつつ降りて行ったら、リビングを開けたとたん甘い匂いにふわん、と包…

彼というひと。

何の他意もなかったのだけれど、彼らの会話を立ち聞きしてしまったことがある。教室に入ろうとしたら声が聞こえてきて、話題の中心人物が自分だったりしたら、立ち止まって聞き耳を立ててしまうのも致し方ないだろう。 最初に話題にのぼったのは、天使のよう…

コンビネーション・カラー

正門前で待ち合わせたのは、行き先が山の方だったからだ。園田たちの家は一応町の中心である、駅の方にあった。しかし、今回訪れる成島の家というのは、町の中心からは少し離れた場所にあった。山奥とは言わないけれど、山に近いことは確かだ。他の三人の家…

「まつりばやしがきこえる」

あらすじ 夏祭りを控えた終業式の日、四人の少年は学校に居残りを命じられる。能天気な少年、ツンケンした優等生、怪電波受信者、超マイペースの四人は、学校に閉じ込められて脱出を試みる。暗闇の中、それぞれの距離は否応なく近づいていく。夏の夜、何でも…