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Note No.6

小説置場

夏の声 03

「僕も行きたかったよー!」 ミスドの前で落ち合った成島は、一通りの話を聞いた後そう言った。僕も遠山の家に行ってみたかった、ねえメノウ様? と相変わらず胸元からのぞくメノウ様に語りかけている。心底残念そうな顔をしているので、「またその内機会が…

夏の声 02

一通り話を聞いた俺が下した結論は二つ。一つ、スイカをもらうことには異論がないっていうかむしろ大歓迎だということ。(親にも聞いた)二つ、とはいっても量的に俺だけじゃ無理。「というわけで、成島と遠山も呼ぼう」 ドーナツを食べ終えてそう言うと、仁…

夏の声 01

終業式の後のあれこれのおかげで、しばらくは外出禁止だったし携帯も使っちゃ駄目で、それがようやく解禁されたから、久しぶりに外へ出た。本当に全然表に出られなかったのはつらい。天気が良いのが余計に嫌だった。夏休みなのに閉じ込められるって精神衛生…

第七章 03【完】

俺は考えようとする。変で間違ってる気がする。絶対に何かがおかしい。歯車が噛みあわないような、有りえない話が起きているみたいな気がする。 だっておかしい。普通のことじゃない。たとえば、ある日突然虹色の雨が降るとか、朝と夜がいっぺんに来たとか、…

第七章 02

ごもっとも。とっくに祭りも終わってる時間帯、普通ならお囃子が出歩くはずがないのだ。だったらあれは何だったんだって話だけど、たぶん考えたらいけないんだ、と結論を下した。三人も同じ結論になったらしく、それぞれの顔を見ると神妙な顔で唇を結んでい…

第七章 01

虫が鳴き始めた。何事もなかったみたいに、まばたきした間に全てが切り替わったんじゃないかというくらい、自然に虫が鳴いていた。木はぎしぎし揺れることもあるけど、どっちかっていうと俺たちの重みのせいらしい。風も吹くけど生ぬるいし、耳を澄ますとど…

第六章 04

あっという小さな声が聞こえたかと思うと、ぴんく色をしたものが転々と葉っぱや枝にぶつかりながら落ちていった。一瞬考えてから上を見ると、暗くてはっきりしないけど、成島が固まっている。重苦しい沈黙が流れる。最初に声を発したのは成島だった。「……メ…

第六章 03

「……神輿って帰る時、すげえあおるんだよな。周りの人もわあわあ声出して、騒げば騒ぐほどいいんだって、腹の底から声出すよ。だから、近くにいると耳鳴りみたいになんの」 目眩がするほどの音の洪水だ。頭が割れるような、圧倒されるほどの楽器、人の声、音…

第六章 02

「俺だったら絶対、無駄に悪あがきする自信ある。いないみたいな、必要じゃないって思われるの、俺マジで駄目だもん」 だから、馬鹿みたいでも俺を見てくれって頑張っちゃうよ。なるべく軽くそう言ったら、ふわふわした笑い声が返ってきた。それは遠山からじ…

第六章 01

一番に東門にタッチしたのは俺で、そのすぐ後に仁羽が到着した。続いて成島がゴール! と飛び込んできたのを肩で息をしつつ見ていたら、当初の目的を思い出した。「……殴る?」「……もう、どうでもいい」 言ってみたら、呆れたような顔で仁羽が言う。不機嫌そ…

第五章 04

「あとちょっとだよ!」 手を叩いて、成島が満面の笑みでそう言う。遠山も何だか楽しげに、「無事に下りられたみたいだね……」なんて言うから、俺も「おう!」とうなずき返す。「ちゃんと木登り出来たねっ! ……この場合は木下りっていうのかな?」 真顔で考え…

第五章 03

眩暈だと思った。だけどすぐに、風の所為だと悟って慌てて枝をつかみ直そうとしたけど上手く行かない。持っていたはずの枝が指から離れて体が前に傾ぐ。ちゃんと踏ん張れなくて、膝から力が抜けた。 落ちる、と思った。本能的にぎゅっと目を閉じる。 だけど…

第五章 02

乾いた唇を開く。拳を握りしめて、奮い立たせて言葉にする。後には引けないとわかっているはずなのに、熱に浮かされるように言葉が浮かぶ。だって、許してくれないなら、一緒に行こうって言ってくれるなら、どれだけ怖くたって嫌だって。そう言ってくれるな…

第五章 01

努力はしてみた。一階の窓からでもいいじゃん(サイズ的に無理だと却下)、もういっそ学校で一晩明かそう(仁羽に呪い殺されそうだった)とか訴えてみたのに。結局お前らがやりたいだけなんじゃないのか、と思ってしまうくらい容赦がなかった。「だ、だって…

第四章 03

「……な? 俺ちゃんと知ってるだろ」 胸を張って笑った。俺には当たり前のことだけど、当たり前のことをちゃんと出来た。誰かに自慢したい気分だった。ちゃんと名前を呼べた。いろんな人の名前を、いつだって呼んでいるけど、今はきちんと声になった。「三人…

第四章 02

「いやいや、遠山怪我人、怪我人は安静にするべき。オッケー? 何なら誰か残してくし」 まさか一人が嫌ってことはないだろうけど、とりあえずそう言ってみた。遠山はしれっと答える。「別に誰が残ってもいいけど……俺は行くから……まあ、待ってれば……?」「あ…

第四章 01

輪になって座りこみ、成島が大量に買っていたお菓子を開ける。買出しの時昼には多すぎる量を買い込む成島を、仁羽はそんなに食わねーだろ、と馬鹿にしてたけどこんな所で役に立つとは。しみじみと感謝しながらお菓子に手を伸ばすと、成島は朗らかに言った。…

第三章 03

「遠山って妹いるんだね! いくつ?」 明るく質問をするのは成島で、そこには完全なる好奇心しか存在しなかった。遠山も無視はせず、「小一?」と答える。「わあ、それくらいなら可愛いねぇ。ちっちゃいもんねぇ」 楽しそうに歓声をあげて、成島は言う。仁羽…

第三章 02

月の光が仁羽を照らす。美術室では中々不吉な気もしたけど、こうやってちゃんと生きてる人間なら、やっぱり月の光はきれいだなって思う。それから、そういう会話をしたことだって思い出す。ほんのついさっき、くだらない話を、四人でしてた。他の誰でもなく…

第三章 01

図書室の真下、廊下の一番奥にある美術室には、当然鍵がかかっていた。どうするのかと思ったら、成島は美術準備室の下にある小さい窓から中へ入り、鍵を開けてくれる。 準備室に入ると、真正面に大きな窓があった。手前にカンバスでもあるのか、白い布がかか…

第二章 03

えへ、と成島が笑った。だってずっと聞こえてるから、と続けて言って、まっすぐ前を指した。指の先を追って、俺と仁羽は(仁羽は拳をおろして)振り向く。遠山はぼんやりしているみたいだけど、視線は動いている。成島が指しているのは、階段の踊り場にある…

第二章 02

「……あのー……トイレ行ってもいい?」「我慢しろ」 真っ先に仁羽に却下された。ものすごい即答の上冷たかった。仁羽は行きたくないのか、と聞いても「……別に」と不機嫌そうに答えられるだけだった。生理現象なんだから仕方ないし我慢はよくない。そうだ、その…

第二章 01

廊下は、ほの暗い世界へつながっていた。窓からぼんやり光がさしこんではいるものの、一番奥はよく見えない。風の音もお囃子も虫の声も遠くて、静寂が横たわる。 進む気が起きなくて黙って突っ立っていたけど、それじゃらちがあかないから、静かに押し付け合…

第一章 04

あまりにも本気で怒っているので、俺はただびくびくしながらそれを聞いているしか出来ない。一体どうしてそこまで怒っているのかはわからないけど、真剣に呪いの言葉(たぶん)を延々吐いていることだけはわかる。先生の説教にも負けないレベルでひたすらぶ…

第一章 03

「俺たちに統一性を求める方が間違ってる。だから、『統一性のなさ』で統一すりゃいい」 壁新聞のことだと気づくまでに、数秒かかった。そういえばそんな話でここにいたんだっけ。他の二人も同じらしく微妙な顔をしていたら、仁羽に怒られた。「本来の目的を…

第一章 02

それだけは止めてくれとお願いしたのに、先生は頑固だった。結局居残るか夏休みナシを迫られたのだ。そうなれば、居残りを選ぶしかない。「仁羽が無意味とか役に立たないとか言うから、怒ったんだよー、きっと」 職員室から放り出され、教室まで仕方なく四人…

第一章 01

呼び出しを無視するとか、しらばっくれる度胸はない。仕方ないので、大笑いしてさっさと帰った友人連中を横目に、終業式の後渋々職員室までついていった。 俺を含めた四人の前で、先生は蝉の声にも負けない音量で騒いでいる。三十分以上続く説教に飽きた俺は…

Toys side:he

園田には不思議な記憶がある。とはいっても、仁羽が聞いたら盛大に眉をしかめるであろう、幽霊といった類の話ではない。ただ単純に、昔随分と大切にしていたぬいぐるみが、気づいたらなくなっていた、というものだ。 誰に聞いても知らないと言うし、さすがに…

Toys

(夢を見た)(あの子が笑っている夢だ) 僕の最初の記憶は、君の瞳だった。大きくて黒い目がきらきらしていたことをよく覚えている。それから、小さな手で僕の体を怖々と抱きかかえて、少しだけ考えた後、めいっぱいに抱きしめてくれたこと、その温もりもい…

きみのうた

授業が終わり放課となれば、後は連休までまっしぐらだ。世間ではゴールデンウィークなどと称されており、人によっては10連休前後の休みとなるらしい。しかし、そんなものは学生にとって縁の無い話だった。カレンダー通りに容赦なく、間の平日は登校が余儀な…

夕映

目の前のプリントにだけ集中して、ひたすら数式を解いていた。仁羽達樹はシャーペンを動かす手を止めない。真っ白だった問題用紙は、次々と展開されていく数字で埋まって行った。 いつもならば、放課後は真っ先に家へ帰るか図書室へ行くかが達樹の行動である…

午下

小テストを返却する社会科教師の声をBGMに、成島弘光は窓の外を眺めている。変わり者として有名な社会科教師のテストは、妙な問題が多い。そのため成績はあまり芳しくないようで、教室は騒がしい。しかし、弘光は気にしない。 点数を隠したり、問題について…

春眠

目が覚めると、教室には誰もいなかった。遠山静は机に突っ伏していた顔をあげると、がらんとした部屋を見渡す。その顔には表情の欠片一つない。人によっては驚く場面ではあったが、静にとっては大したことではなかったからだ。むしろ、起きてもまだ外が明る…

朝霞

クラス替えを確認してから、園田義人は気合いを入れて新しい教室に入った。時刻は朝のHRが始まる十分前。早く来ているヤツラは大体揃っていて、遅刻ギリギリの連中はまだ来ない。余裕を持って馬鹿話を展開するには丁度いい。「おっはよー!」 教室に入り、真…

歓天喜地

眼前を埋め尽くすほどの花びら。溢れ出して止まらない光。目もくらむほどの、世界を震わす、ような。 名前を呼ばれて振り向く前に、背中に思いっきりぶつかられる。一気にバランスを崩して、そのまま床に倒れこむ。衝撃の主を背中に乗せたまま。「見て見てー…

身を知る雨

大事な人なんて要らなかった。 大切なものなんて欲しくなかった。 それまでずっとシンプルに生きていたつもりだったし、これからもそうしていくんだろうと思っていた。余計なものなんて何も持たないで、何も望まず何も願わず、そうして生きていくんだと思っ…

Out of tune!

お前に泣かれると困る。 端的に言うと、驚いた。それからものすごく慌てた。柄にもなく本気で慌てふためいて、飲んでた紅茶を噴き出す所だった。ただ、当の本人が俺より驚いているもんだから少し落ち着いた。「うお、何だこれ」「…こっちの台詞だ、馬鹿野郎…

まるくおちゆく、

こんなにきれいなものを、ぼくはほかにしらないのです。 ぼろぼろ、と零れていく。端から盛り上がって、まあるく落ちてゆく雫を僕は眺めています。目尻を赤く染めて、小刻みに呼吸を繰り返しながら、頬をゆるやかに流れてゆく雫を見つめているのです。 どん…

ベリーベリーストロベリー

委員会の先輩に伝言なんて、簡単だと思ってた。伝える相手があの仁羽先輩だとわかるまでは。 最初に友人連中に助けを求めたけど、爽やかな笑顔で見捨てられた。委員会の後輩、先輩、同学年も全滅。みんなやんわりと、だけどしっかりと完全拒否だった。私が逆…

ハッピー・デイ

誕生日にこだわりがないと言えば嘘になるし、っていうかむしろこだわりは強い方だと思う。だって、自分から口に出さないでも気にかけてもらっているかどうかがわかる珍しい日だったから。 朝起きてメールをチェックすると、友達から一通メールが来ていた。午…

ヘブンズゲートは見えたかい?

自分でもイメージが貧困だとは思った。一面の花畑を進むと、ごろごろと石の転がる河原に出て、目を凝らしていたら去年死んだおばあちゃんがこっちに来るなと手でも振ってるんじゃないかと思ったくらいだ。だけどそんなことはなくて、見えているのはふわふわ…

最初で最後の言葉にしよう

白い床に白い壁に白い天井は、精神衛生上よくないのだと思って仁羽達樹はいらいらと足を揺する。隣に座っている、くるくるとした茶色い髪を持つ成島弘光は、ピンク色のうさぎのあみぐるみを両手で握り締めている。真っ直ぐと立って前を見ている遠山静は、無…

Call my name

「何馬鹿面してんだよ」 高圧的なその言葉が誰のものかなんて、顔を見なくてもわかっている。 今度の遠足スタンプラリーの班編成を行うという段になって、いつもなら率先してグループ作りを行う俺は、椅子に座ったままだった。予想通りというかなんというか…

はぴ、はぴ、ばーすでー

クリスマスまであと二週間、という時期だった。瑞原商店街もささやかながら活気づいているこの時期、人混みを避けた俺は裏通りに入った。普段あまり通らない上、クリスマスソングが流れている中裏通りを通るのもなかなかわびしいなぁと思いながら歩いていた…

a festive mood

遅い夕食を取ろうと入ったラーメン屋で、ついていたテレビにわずかながら顔を曇らせる。それを目ざとく見つけたのは仁羽で、注文を終えると世間話の一端のように、するりと尋ねた。「嫌いなのか、お前」「え? なに?」 何の話をしているかわからないらしく…

スマイル、フレンズ!

家にやって来たのは三人の男の子だった。一人だと思っていたので、素で驚いた。出迎えに玄関まで行ったら、弘光はきらきらとした笑顔を浮かべて「おねーちゃん、ただいま!」と笑った。かわいい。 弘光は、後ろからやって来た男の子に私のことを紹介し、続い…

ハロー、フレンズ!

朝起きると、何やら甘い匂いに家中が満たされていた。まさか久々にカレンダー通りの休日がもらえた娘のために、張り切っているわけでもないだろう。はたして今日は何があったっけ、と思いつつ降りて行ったら、リビングを開けたとたん甘い匂いにふわん、と包…

彼というひと。

何の他意もなかったのだけれど、彼らの会話を立ち聞きしてしまったことがある。教室に入ろうとしたら声が聞こえてきて、話題の中心人物が自分だったりしたら、立ち止まって聞き耳を立ててしまうのも致し方ないだろう。 最初に話題にのぼったのは、天使のよう…

コンビネーション・カラー

正門前で待ち合わせたのは、行き先が山の方だったからだ。園田たちの家は一応町の中心である、駅の方にあった。しかし、今回訪れる成島の家というのは、町の中心からは少し離れた場所にあった。山奥とは言わないけれど、山に近いことは確かだ。他の三人の家…

「まつりばやしがきこえる」

あらすじ 夏祭りを控えた終業式の日、四人の少年は学校に居残りを命じられる。能天気な少年、ツンケンした優等生、怪電波受信者、超マイペースの四人は、学校に閉じ込められて脱出を試みる。暗闇の中、それぞれの距離は否応なく近づいていく。夏の夜、何でも…