Note No.6

小説置場

「紫夜の皇帝」

My princess name

新しい役者のマネージャーになるよう、通達があった。 それは久しぶりにうちの事務所から出るという月9のヒロインだった。無名の新人の大抜擢だというのだから、事務所の力の入れようもかなりのものだ。自分でもいうのもなんだが、老舗と言われる事務所の中…

今日の話と明日の話

役を受けることが決まってから、変わったことはいくつかある。 まず、極力外に顔を出さないこと。これは元々露出が少なかったので、あまり難しいことではない。雑誌のプチ連載は続いているが、元々大した紙面の大きさではないから問題はないようだ。 また、…

Cotton candy

最後の手段というのは、最後まで取っておくからそう言う。しかし、最後まで取っておくというのはつまり、実行するには数多くの障害があったり、心理的に抵抗があったりするためである。万が一すんなりと実行出来るのであれば、最初の手段に持ってくる。 諸事…

月の目覚め

昔から自分の顔が嫌いで仕方なかった。両親や周りの人が褒めてくれるのは嬉しかったけど、それでもやっぱり嫌だった。だって、知らない誰かに「かわいいわねぇ」なんて言われるし、ナンパされるし「お嬢さん」って言われるし、電車に乗ると痴漢にあう。(突…

シャム双生児

おだやかな、午後の昼下がりだった。ワンフロアぶち抜きの部屋には、住人である静貴はもちろん、同じくマンションに住んでいるメンバーが顔をそろえていた。特に申し合わせたわけではなかったのだが、気づくとこうして部屋に集合している、ということが多々…

斎主

父が凶刃に斃れた瞬間、その目に宿ったのは悲しみでも憎しみでもなかった。夜具も畳も襖も真っ赤に染まり、行灯の火でぬらぬらと光っていた。賊は真っ直ぐと刃を向け、「恨むならこの時代を恨め」と、冷淡な声で切り捨てる。 静貴は昨日まで忠臣であった賊へ…

武なり

部屋の中の彼らは、静貴に示された計画を見つめている。無謀とまでは言わないが、無茶の部類であることは間違いない。絶対に出来ない、というわけではないものの、積極的に動こう、とは思えない。 何せ今まで自分たちが培ってきたもののほとんどを、無に帰さ…

慧眼

後ろから静貴を見ていた二人は、つくづく思っていた。本当に楽しそうだなぁ、と。 元々静貴という少年は、血の気が多い。基本的に直情径行、思い立ったらすぐ行動。物事の裏を読むくらいなら実力行使でかいくぐる、いささか思慮と冷静さを欠いている、という…

頂の君主

びりびりと空気が震えていた。抑え込もうと努力しているし、実際別のことを考えて気を散らしている。だからどうにか、漏れ出す程度で済んでいる。それでも完全に消し去ることは難しく、明らかに異質な雰囲気を放出していた。 もっとも、気づく人間は多くない…

覇王

その瞬間、全ての空気が塗り替えられた。 頂点まで登りつめたのは一瞬だった。しかし、それだけでもう充分だった。ソファに寝転がっていた士音は反射的に飛びおきると、静貴から距離を取った。理性や思考の存在しない、ただ本能的な行為。全身の毛穴が開きき…

Let me make the later talk

ぐっぐっと親指に力を入れると、わずかながら筋肉が沈む。しなびたじじいのくせに、未だ筋肉に多少ながらの弾力がある事実に、静貴は内心で舌を巻く。本人は「あー」とか言いながら身悶えていて、何だか見ていてあんまり気持ちよくないので、もっと力入れて…

Natural Conclusion

最も喜んだのは静貴で、一番残念がったのがカホとミオ姉妹であることは、誰の目にも明らかだった。しかし、この姉妹がただで転ぶような人間ではないことなど、誰もが承知していた。「…まあいいわ」「洋服は、まだたくさんあるんだもの」「髪飾りもお化粧道具…

Hello, lady?

「で?」 シャツのボタンを閉めさせてから、静貴は低い声で尋ねた。朝起きたらこうなっていた、という結人の説明を疑う理由はないし、大体嘘を言ったって仕方ないのだからそれはそのまま信じるとしよう。だけれど、静貴が言いたいのはそういうことではなかっ…

Come out of a dream early!

頭で考えることが好きだった。体を動かすことは嫌いではなかったし、頭をすっきりさせるにはある程度体を使った方がいいことは知っていたから、運動をしないわけではない。だけれど、体で考えるより頭で考えること―混沌の所在を見極め、整理して筋道を立てて…

The sport of fortune

その日の朝、いつものように半分寝ぼけたままの状態でベッドから起き出した静貴は、緩慢な動作で居間へと入った。ワンフロアぶち抜きで自宅としているため、居間は冗談のように広い。ダブルベッドくらいはあるのではというソファに横たわり、引き続き惰眠を…

Usual oddity

久しぶりに表の世界へ出てきた。いろいろ立て込んでいたからちょっとした息抜きに、というわけではもちろんなく、仕事の一環だった。しかし、表の世界は常に気を張っている必要はないので、楽と言えば楽だし、護衛も士音一人で充分である。 訪れた先は、国営…

「紫夜の皇帝」

あらすじ 6世紀半ば、大君の権力は増大し、国々の豪族たちは次第に力を失っていった。天皇制が定着し始めた7世紀後半には、地方豪族たちは完全にその力を失ったと思われた。しかし、地方豪族たちは密かに力を蓄え、反旗を翻す時を待っていた。歴史から身を…