Note No.6

小説置場

第一章 03

「俺たちに統一性を求める方が間違ってる。だから、『統一性のなさ』で統一すりゃいい」 壁新聞のことだと気づくまでに、数秒かかった。そういえばそんな話でここにいたんだっけ。他の二人も同じらしく微妙な顔をしていたら、仁羽に怒られた。「本来の目的を…

第一章 02

それだけは止めてくれとお願いしたのに、先生は頑固だった。結局居残るか夏休みナシを迫られたのだ。そうなれば、居残りを選ぶしかない。「仁羽が無意味とか役に立たないとか言うから、怒ったんだよー、きっと」 職員室から放り出され、教室まで仕方なく四人…

第一章 01

呼び出しを無視するとか、しらばっくれる度胸はない。仕方ないので、大笑いしてさっさと帰った友人連中を横目に、終業式の後渋々職員室までついていった。 俺を含めた四人の前で、先生は蝉の声にも負けない音量で騒いでいる。三十分以上続く説教に飽きた俺は…

My princess name

新しい役者のマネージャーになるよう、通達があった。 それは久しぶりにうちの事務所から出るという月9のヒロインだった。無名の新人の大抜擢だというのだから、事務所の力の入れようもかなりのものだ。自分でもいうのもなんだが、老舗と言われる事務所の中…

今日の話と明日の話

役を受けることが決まってから、変わったことはいくつかある。 まず、極力外に顔を出さないこと。これは元々露出が少なかったので、あまり難しいことではない。雑誌のプチ連載は続いているが、元々大した紙面の大きさではないから問題はないようだ。 また、…

Cotton candy

最後の手段というのは、最後まで取っておくからそう言う。しかし、最後まで取っておくというのはつまり、実行するには数多くの障害があったり、心理的に抵抗があったりするためである。万が一すんなりと実行出来るのであれば、最初の手段に持ってくる。 諸事…

待つ日

あらあなた、転入生なのね。それじゃあ、ご存じないでしょう? どうしてこんなに朝早くから、こんな所にいるのか、不思議そうな顔をしていますもの。ええ、こんな所――空き教室にわたくしたちが集まっている理由、なんて想像がつきませんものね。 仕方ありま…

月の目覚め

昔から自分の顔が嫌いで仕方なかった。両親や周りの人が褒めてくれるのは嬉しかったけど、それでもやっぱり嫌だった。だって、知らない誰かに「かわいいわねぇ」なんて言われるし、ナンパされるし「お嬢さん」って言われるし、電車に乗ると痴漢にあう。(突…

願いの破片

高校時代の友人が、大学へ行かずに就職すると言い出した時は驚いた。ごく一般的な公立校だったから、生徒の8割は大学進学、2割は専門学校へ、というような学校だったのだから。だけれど、働きながら子どもを育てると言い出した時が、人生で最大に驚いた。 駅…

神の子羊

希望に満ちて、その子どもは生まれるはずだった。産声の上がる瞬間を誰もが待ち望んでいた。国王に嫁いだ東の王妃――ヴィアレッタ・オイアソート・デル・ウェリファーナ――の一族である、ヴィアレッタ公爵は娘の出産を誰より心待ちにしていた。 北の王妃がつい…

夜想

ゆっくりと日が沈んでいく。太陽は地上に別れを告げ、次第に小さくなって仕舞いには見えなくなる。辺りにはまだ残り日が漂ってはいるけれど、反対側の空はうっすらと藍に染まっていた。「――夜が来るね」 つぶやいた僕は、君の方へ振り返る。人気のない公園で…

ひかりみちる

難しいことはよくわからないのだけれど、光を調節する機能がうまく働かなくなっているのだという。ちゃんと調整出来ないから、光を痛いほどに感じてしまうらしい。だけどこれはまだ初期の段階―というより、まだまだ想定内のちょっとした誤作動であると先生は…

光をはなつ

まぶしいな、と湊は思った。カーテンを閉め忘れたまま眠りこけて、太陽が天辺まで昇ってしまって、だからこんなに光がきついのだろうか、と思いながらベッドからおりる。目をこすりながら壁の時計へ目をやるが、ぼんやりしていてよく見えない。時計の輪郭は…

Star dust

空の綺麗な夜だった。 夏期講習の帰り道、生温い空気を掻き分けながら自転車をこいでいた。授業の最後に出された数式の答えが、どうしても合わない。あっちこっちを引っくり返して、代入してみたけどいまいちわからない。帰ったらもう一回見直してみるか、と…

Milky way

星の綺麗な夜だった。 友人宅からの帰り道、煙草が吸いたくなって公園に立ち寄った。子どもたちが遊ぶ公園で煙草というものどうかとは思ったが、昨今歩き煙草への風当たりの強さは尋常ではない。公園に誰も人がいないことを確かめてから、土喜は公園へ入った…

MD

コピー機の説明を終えて戻ってきた泉は、夏暮が手に持っているものに目を止めた。手のひらに収まるほどの、四角い機械らしきもの。コードらしき黒いものがついているようだ。 レジの中に入ると、尋ねるより先に声をかけられる。店内にお客さんはいないのだし…

はさみ

神様は、どうして僕を殺してくれなかったんだろう。 頬を撫でた。血の気の失せた顔は真っ白で、作り物のようだった。やわらかくてあたたかだった体は、もうすっかり冷たくなっている。余計に人形のように思えるけど、こんなに美しい人形を僕は知らない。これ…

back-to-back

先生と日向は似ていると、思う。 社会科準備室で補習授業を受けている。というのも、この前の定期テストで赤点を取っちゃったから。元々得意じゃなかったけど、高校に入ってからはばっちり苦手に昇格した。あれ、こういう時って昇格でいいのかな。「ぼけっと…

ハーモニカ

リーズスタレット家の双子の恐ろしい所は、その類稀なる行動力だと思う。やると決めたら貫き通す意志の強さや、綿密に実現性の高い計画を練る頭など、その他色々あると思うが、やはり恐ろしいのは「思い立ったらすぐ実行」という、無駄なまでの機動力の高さ…

崩れかけた階段を器用に登り、上層階へ到達する。上手くカモフラージュしている盗聴マイクに向けて、帰ったことと合い言葉を告げる。いくら戦闘大好き人間のセイだとしても、ホームで暴れ回ることは遠慮したかった。せっかく寝る場所も確保出来ているのだし…

シャム双生児

おだやかな、午後の昼下がりだった。ワンフロアぶち抜きの部屋には、住人である静貴はもちろん、同じくマンションに住んでいるメンバーが顔をそろえていた。特に申し合わせたわけではなかったのだが、気づくとこうして部屋に集合している、ということが多々…

ニューロン

さいごのけしきをおぼえている? 刺し込んだナイフをゆっくりと引き抜いた。丁寧に、きちんと肋骨を傷つけるように注意しながら。すらりと引き抜けば、支えを失った体が道路に転がった。裁貴は注意深く自分の体を点検して、返り血がついていないことを確認す…

Hymns

行きたい所があるのだと言う汝緒さんは、暗がりから決して動こうとしない。境内にある大木の傍に座り込んだままで、恐らくへらへらと笑っているのだろう。表情は見えないけれど、間違ってはいない。「……汝緒さん」「どうしたの、悠一くん」 朗らかな声だった…

深夜番組

昼休み、隣のクラスを訪れた基河聡司は、同じく演劇部部員である上郷雪音を呼び出した。貸したままになっていた、社会の資料集を返してもらうためである。「……なに」 不機嫌オーラを全開にして廊下に出てきた雪音が、顔に似ず低い声で用件を尋ねる。恐らく自…

ガードレール

内側から光を放つようだ、と思う。いやもしかしたら、本当に光っているのかも。私自身は何も変わっていないつもりだけど、目の構造が知らない内に変化していて、内側から放つ光を目に映せるようになったのかもしれない。 白く滑らかな肌は、陶器のようなすべ…

柔らかい殻

夏が来るよ。 終業式まで後二日、という頃だ。中間テストも終わったし、もう夏休みを待つだけ! という気分で学校中が満ちていた。うちのクラス仲は悪くないというより良い方だから、放課後暇な子たちがだらだらと話しながら帰っていた。 ムードメーカーの男…

トランキライザー

住宅街の一角にある、何の変哲もない家だった。市役所から車で十分ほど行った先にあるのは、新しく家を買う若い夫婦のために用意されたような、ありふれた家の群れ。建売にしてはデザイン度が高く、同じような家が並んでいないことだけが唯一の着目点と言え…

かみなり

わたくしたちは、生まれた時からわたくしたちなのです。疑う余地は微塵もなく、いついかなる時も、完全にわたくしたち自身であり続けるのです。一つとして疑問に思うことはありません。わたくしたちは完全でありました。わたくしたちは完璧でありました――。 …

釣りをするひと

しゃわしゃわと、蝉の声が降って来る。まだらに落ちる光の模様を眺めながら、ペダルを踏む足に力を込めた。汗が顎から滴って落ちていく。自分の息の音が聞こえる。蝉の声が耳の奥で鳴るみたいだ。緑を挟んでいるといっても、太陽の威力は充分だった。どうし…

マルボロ

小箱が空中高く放り上げられる。真っ直ぐ落ちてくると、初めからそうすることが決まっていたように、放り投げた人物の手へ収まった。人物――ライは、手の中の箱を何とも言えない顔で見つめていた。「ライ?」 しばらくぼんやりしていると、不意に声をかけられ…

階段

夏のセール旋風は、みつば商店街にも吹き荒れている。そこかしこで何割引きやら云%引きやら、はたまたスタンプ二倍キャンペーンが目に入る。活気づいているのはいいことだ、と思いつつ宥はダンボールの箱を抱えて歩いている。 どうせ戻った所でいいようにこ…

クレヨン

懐かしい、と声をあげたのはこもちゃんだった。私とこなみは、こもちゃんの手元をのぞきこむ。するとそこにあったのは、薄汚れた四角い箱。一体なんだろう、と思ったらこなみが嬉しそうに言った。「あ。もしかして、クレヨン?」「そうそう」 言われてもう一…

アメイジンググレイス

神様っていると思う、と聞かれた。欄干に寄りかかったまま、川向こうに沈んでいく夕日に照らされた竹花は、わたしを見ずにそう言った。滑らかな、とても平坦な声だった。それは、竹花らしい口調ではなかった。普段の彼女は、いつも嬉しそうにしていて、愚痴…

Dear mine

あなたは俺の、宝物です。 とても大切なことを言うから、ちゃんと聞いてほしい。柄にもないことだけど、どうか笑わないでください。自分らしくはないとは確かに俺も思うけど、本当に心の底から思ってることだから。 いいかな。照れ臭いけど、本当に思ってる…

みちる

泣きそうな気持ちになる時がある。悲しいわけではないのだけれど、ただ胸がいっぱいになってしまう瞬間が、不意に訪れるのだ。そうするとわたしは、何だか無性に泣きたくなる。どうしてだろう。心の中がいっぱいになって、こぼれだしてしまうのだ。それは静…

Jewelry pot

この思いを、一体何と名づけよう。 大きく一つ深呼吸をしたのは、落ち着きたいとかとりあえず周りを見渡すべきだとか、そういう理由じゃなかった。ほとんど習慣みたいに、ただ息を吸って吐いただけだ。日常的に繰り返してきた動作を、この瞬間も行っているだ…

スタートラインに立つ前に

自分の心臓の音が聞こえる。胸の高鳴りなんて素敵なものじゃないことは、私が一番よくわかっている。手のひらには汗もかいてるし、何だか嫌な感じに胸がざわざわしているし、お腹の奥底がじりじりと焼かれるような焦燥感も一緒になっている。どきどき、と頭…

レテの深海に沈没

何一つ、覚えてなどいないのですが。それでもこれだけは、間違いないように思うのです。 あなたが用意してくれたコーヒーを飲んでいたら、「ブラックも飲めるんだね」と言った。もしかして、と思って尋ねる。「以前の私はブラックではないんでしょうか」「砂…

故に未だ手を伸ばす

制止の声を振り切って外に飛び出した。もう何もかもが終わりで、追いかけたって意味がない、と誰もが言う。今さら決意を変えることなんて出来やしないし、大体喧嘩別れした僕の言葉なんて聞くはずがない。 それは確かにそうだろう。僕の言葉を素直に聞くよう…

またたく睫毛にきらきら星をあげましょう

(まほうを、おぼえている?) いつだって私の魔法使いはお兄ちゃんだった。いじめられたら助けてくれたし、怒られたら一緒に謝ってくれた。お兄ちゃんがいれば何にも怖くなかった。私はいつだって無敵だった。だって私には、魔法使いの味方がいたから。「お…

君と始めるワールドエンド

ゆっくりと土手を歩いている。 いつだったか、流星群が来るとかで夜中に抜け出した時、人気はほとんどなかったはずだけれど。同じくらいの時間帯にも関わらず、僕の視界にはちらほらと人の姿が映っている。一体どういう風の吹き回しか、なんて大体予想はつく…

Baby, I love you

(あいしてくれる?) 誰かに認められるためのものではなかった。そんなこと、嫌というほど知っているだろうし、充分自覚しているだろう。だって、何より思っているのは君自身だ。君はほとんど確信してしまっている。誰に認められなくても、誰一人見向きもし…

君を幸ふ

横たわったお前の傍に座った。手を取り、そっと握った。握り返してはこなかったけれど、うっすら目を開く。血の気が失せて白くなった顔の中、潤んだ瞳は黒く光り、場違いにあざやかだ。「……泣いてる……?」 小さくか細い声がよろよろと紡がれる。いつもなら思…

「有事の際には我らも一枚岩になるなどというのは幻想だ!」 背筋を真っ直ぐ伸ばした隊長が、軍靴を高らかに鳴らして扉を開けると、きっぱりと言った。直立不動の僕たちは、後ろに手を組んだまま、隊長を見つめる。隊長は相変わらず不適な笑みを浮かべたまま…

まなみと梨沙子

まなみと梨沙子の出会いは遅い。まなみは生まれた時からここに住んでいるので、もちろん地元の旧家である栖斐(すい)家のことは知っていた。年が同じ女の子と男の子、双子の姉弟がいることも、当然耳に入ってくる。しかし、噂話で耳にすることと、実際に出…

緑陰の庭

一直線に続く塀と並行して歩くと、切れ間が現れる。一区画が丸ごと敷地になっているこのお屋敷の、正面玄関である。太い樹木が橋渡しされ、その上には立派な瓦屋根。重厚な門構えの隣には、まな板くらいの大きさの石材が掲げられている。刻まれた文字は随分…

サンシャインデイズ

太陽が容赦なく照りつけている。まだ夏には早いはずだが、アスファルトは充分に熱を持ち、辺りの気温を底上げしていた。熱せられたフライパンの上というヤツはこんな風かもしれない、と自転車を漕ぐ郁郎は考える。まだ今なら、精々余熱という所だろうが、本…

さやに

パーティー会場は水を打ったように静まり返っている。いつかこうなるとは思っていたが、それにしたってどうして今回なんだろう。まったく、初音の記念すべき社交界デビューだったのに。 内心歯噛みしたい衝動に駆られるが、もちろん顔には出さない。自分の表…

明日にサヨウナラ

穂高はつくづく変なヤツだった。いつだって自分の世界の中で生きていて、誰かの言いなりになるのなんて真っ平だって言い張っていた。かといって、頑固って訳でもなくて、いろんな人間とつるんでたし、それが許されるようなやつだった。「だからってそれはど…

無題

きっと僕はとっくに知っていた。 悲しいような気もしたし、笑えるような気分でもあった。僕にはもう自分の感情さえわからないらしい。「……はは」 暗い部屋に、乾ききって干からびた笑みが落ちる。本当に笑っているのかどうかさえわからないけど、たぶんこれ…