Note No.6

小説置場

くるくるり

 ざわめく駅の構内を歩きながら、のんびりと周りを見渡した。改札を出た所にある竹姫の壁画は抽象的ではあるものの、何が描いてあるのかははっきりとわかる。何だか綺麗に脚色されてはいるけれど、少なくとも300年前はそんなものではなかった。

 月の夜、障子の格子を染め出した畳の上には、血だまりが広がっていた。冷たい夜だった。心臓の音がやけに大きく聞こえたけど、濡れた手のひらはあたたかだったけれど、あの夜は、何もかもが凍えてすべてが固まっていた。抱き起こした体は白く、冷たい。何も言わない躯を抱いて、どんな言葉を吐いたのだろう。答えはいつだって、この頭の中にあるのだと知っている。
 ヘッドホンを装着して、さっきまでかけていた音楽を再び流した。耳によく馴染む音が入ってきて、簡単に意識は現実から離れていく。
 最初は何が何だかわからなかった。突然刀と脇差を前に置いて「生贄を決める」と宣言されて、一人ずつ部屋に閉じ込められた。どうにか外へ出たら、そこには血まみれの死体を前にした日出が立っていた。どうして、と言ったし何でだよ、と詰め寄った。それでも、日出はただ、静かに立っているだけだった。
 きっと日出は、何もかもを黙って逝くつもりだったのだ。全てを封印して、全てを自分だけが背負って、何も語らず逝くつもりだった。そうでなくてよかったと、今の千歳は思う。全てのわけを聞き、この状況の意味を知り、あの時の俺は言ったのだ。心からの約束を、日出に向かって誓った。その言葉なら、全部ちゃんと覚えている。
「今度は、二人で笑っていよう」
 そう言ったら、日出は笑っていた。いつものように、光を放つ笑顔で、太陽みたいに力強く。だから俺も笑っていたのだと、千歳は知っていた。歌に紛れるようにして、千歳はつぶやく。
「必ず会おう。また会おう」
 決して刃を向けあうことのないこの世界でなら、俺たちはちゃんと幸せになれる。だから、どこかにいるお前にそう言うよ。
 ふと、風の流れる気配を感じて千歳は振り向いた。流れる先を目で追うと、西口の方でたむろしている集団が目に入る。緑のジャケットに、明るい緑チェックのズボンは、間違いなく樫賀高校のものに違いない。大きな声で笑っていて、それは駅中に響きそうだ。その中で、見事な金髪をした人間がこっちを見ていることに気づいた。手に携帯を持ち、ここまで視線を飛ばしている。何かを言うわけではないし、随分遠いから顔は見えない。それでも、向日葵のような綺麗な金髪をしていることだけはわかる。
 しばらくして、相手が視線を外したので千歳も前を見た。雑踏に紛れていく二人は、今はまだ交わらない。