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Note No.6

小説置場

サムライハイスクール

 文化祭で演劇をやることになった。どこをどうなってそうなったのかは定かではないが、なぜか時代ものをやることになった。江戸ブームだとか時代劇が流行っていたとか理由は色々あるだろうが、剣道部が多かったのと和服持ちがいたからというのも理由の一端だろう。
 長久保亜伊はクラス内で浮いているというわけではないが、なじんでいるかと言えば首を傾げざるを得ない。鋭い目つきにしっかりした体格、あまり笑わないし積極的に話す方でもない。何かされたわけでもないが、どこなく一線を引いて接してしまう―そんな存在だった。しかし、文化祭である。普段は話さないクラスメイトとも会話が発生し、いつもなら一緒に行動しないようなタイプとの行動が増える。そんな時期だった。そして、剣道部以外も武士要員が必要で、体格とか身長とかで合致したメンバーに亜伊も入っていたのである。
「ていうか、長久保くん似合いすぎだわ」
 頼めば案外あっさりとうなずいてくれて、怒鳴るとか殴るとかいうことももちろんなく、衣装合わせに付き合ってくれた亜伊に向けての第一声はそれだった。
「…そうか?」
 淡々と無表情で言うけれど、衣装班の女子たちは色めき立つ。いかんせん西洋風の顔が多い剣道部に比べて、何という日本人顔。ここまで着流しの似合う高校生っていてもいいんだろうか? とかあほなことを考えつつ、どうでもよさそうな亜伊に向けて熱弁をふるった。
「ちょう似合う! いやーまさかここまで着流しが似合うとは思ってなかった。このままドラマ出てもいける。江戸の町を歩いてても違和感ゼロ」
「そうか。ならよかった」
 ほんの少し口の端をあげて、笑うような顔をするので女子たちはちょっとだけ心がぐらついた。こういうギャップに弱い人間というのは案外多いものである。
「じゃあ、これも持ってくれる?」
 竹刀を渡すと、亜伊はごく自然に受けとった。広くはない教室でなめらかに竹刀をさばき、腰にさす。いたって自然な、当たり前のような動作だった。それを見ていた女子たちは目を見張り、なぜか当の本人も怪訝そうな顔をしている。
「…長久保くん、時代劇好き?」
「いや、特には」
 それにしても、今の動作は堂に入っていた。それが当たり前のように、違和感がなさすぎてそれが違和感であると思うくらいに。亜伊もそう感じているのか、腰にさした竹刀を取り出すと二度三度振ってみる。上段に構えて振り下ろし、横に薙いで、一歩踏み込んで打ち込む。全力ではない軽い動作ではあったけれど、それはまったく自然だった。
「…剣道やってた?」
「やったことねえよ」
 亜伊の返答に衣装班は黙る。剣道経験者よりも、正直板についていた。剣道の型というより、時代劇で見るようなもっと荒々しくてそのまま切り込んでいけそうな、そういう振り方だった。だけれど剣道をやったことはないと言うし、時代劇が好きだというわけでもないと言う。それならこれは一体何だと言うのだろう。
「あ、わかった。きっと長久保くんの前世は武士なんだ」
「…なんだそれ」
 困ったように笑う顔に、衣装班の数人がまずいと思った。はにかむような顔で笑うその人は、着流し姿で竹刀を持っていて、今までそうやって生きてきた人みたいに自然体だ。
 こんな人いたらきっと惚れちゃうよなぁと考える衣装班たちは、同時に、これだと主役の剣道部が霞むんじゃないの? とぼんやり思っていた。