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Note No.6

小説置場

問わず語り

 

 俺はこれから突拍子もない話をするけれど、聞いてくれますか。

 

 

 遠い昔の話です。ここがまだ町ではなく村だった、そんな頃の話です。今は駅がある辺りには小さな山があったんですけど、切り崩して駅になりました。日竹村はその山と、二つの川に挟まれていました。小さな田はあったし畑もあって、食べるものはありました。川では魚も取れたし、山に入れば食材はわりと豊富だったし。あと、一部には竹も生えていてたけのこもよく取れたみたいだし、食事にはあまり困らなくていい村でした。
 村の入口には、峠がありました。鹿賀峠という名前でした。この峠を下っていくと日竹村に辿り着きます。一本道だから迷うことはないでしょう。村には田んぼと畑があって、その間に家が点在しています。それから、東と西に大きな家があって、これが名主さんの家でした。こういう村には二大勢力のあることが多いけれど、日竹村ではそんなこともありません。二つの有力農家は均衡を保って、仲良くやっていました。それから、村の中央には寺がありました。いえ、本来の供養ではないのです。菩提寺はもっと村の奥にありました。中央にあったのは、寺というより寺だったものという方がいいかもしれません。ここではいわゆる寺子屋のようなものが開かれていて、読み書きを教えています。
 教師はただ先生と呼ばれていました。日竹村出身ですが、一時期江戸に出ていたこともあるようで江戸の文人との交流もあったようです。珍しく代替わりで、教師を世襲する家でした。変わっているでしょう?
 このお寺で育てられている子どもたちは、みんな捨て子だったのです。村の入口にある峠の話をしましたが、この峠にはある噂がありました。それは、この峠に子どもを捨てたら山の神様が拾ってくれる、というものでした。はい、そうです。あの村に捨てられた子どもは日竹村で養われていたのです。あの寺で、勉強を教えながら剣術や医療だって教えます。畑仕事をしなくても食事にありつけたし、ずいぶん手厚く扱われていました。大事に、懇ろに育てられていました。先生はそのための存在です。
 何か裏がありそうだ。はい、その通りです。単なる慈善活動でそんなことをしているわけでは決してなかった。日竹村には、昔から言い伝えがあります。今でも語り継がれていますね。そうです。竹姫の伝説です。昔の伝説は、今のようなものとはだいぶ違っているのですが―随分綺麗に脚色されていますよ。あの時伝えられた伝説に基づいて、子どもが必要だった。それも健康な男の子です。神の内ではなく人間の、7歳以上の男の子です。竹姫に捧げるための、たった一人が必要だった。
 だからね、集められていたんです。俺たちは、たった一人を決めるための殺し合いをさせるために育てられていた。
 一緒に過ごして、いろんなことを一緒にしてきた仲間を殺さなくてはならなかった。それが出来なければ全員死ななくちゃいけなくて。たった一人が生き残ったとしても、それはつまり竹姫に捧げるためだった。竹姫へ捧げるために生きたまま内臓を抉り出して火にくべられる。そんなことのために、殺し合いをさせるんだと言う。
 先生はそのための監視役でした。殺し合いの出来る能力を育てて、ちゃんと殺し合いをさせてたった一人を自害させないための。思えば、読み書きは先生の善意だったのでしょう。武術と体のつくりだけわかれば、人を殺すことは出来るのだから。
 そうして、俺たちは戻れない道まで進んでしまったのです。どこかで掛け違えてしまって、逃れられないのだと悟ってしまった。後には戻れなくて先に進むしかなくて、こんな風に殺しあわない世界で出会おうと約束することしか出来なかった。
 信じられなくていいです。聞いてくれたらいい。
 俺はその記憶を持っている。俺のものじゃないのに、苦しかったことも楽しかったことも、全部知っている。俺のものじゃないけど、あの感情は俺のものなんです。だからきっと、先生の気持ちが残っていたことだってあり得ると思うんです。
 先生は優しくてずるくて、見殺しにすることも助け出すことも出来なかった。だからきっと、後悔していたんですね。俺たちは―俺は、それでも最後に選んでくれたことを、知っているけれど。先生は、後悔しっぱなしだったんですね。
 信じられないですよね。忘れてくれてもいいです。だけど、だけど。もし、欠片でも信じてくれるというのなら、俺は多分泣いてしまうよ。