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Note No.6

小説置場

たとえばこんな、未来挿話

「ってわけで、あの二人帰って来るらしいです」
 悟一は携帯電話を耳と肩に挟んで、机の周りの紙をひっくり返した。予定を記した手帳を見つけ出すと、中を開いてスケジュールを確認する。幸い悟一は大学生なので、バイトの予定さえ合えば時間は出来る。授業は自主的に休講にしよう、と決めて電話の向こうへ声をかける。
「そういうことなので、史哉さん暇な日はいつですか?」
 社会人である史哉の予定さえ合えば、後はどうにかなるだろう。他にも数人社会人はいるのだが、その辺の事情は微妙に一般的な人間とは違っている。史哉は電話の向こうで手帳をめくっているらしく、しばらく沈黙が流れた。
「…来週が過ぎたら、水金の夜は平気」
「わかりました。水曜と金曜の夜ですね」
 手帳のメモスペースに記し、他の面子を思い起こす。とりあえず大貴は大学生なのでどうにでもなるだろう。授業が入っていたとしてもこっちを優先させるだろう、ということくらいは予測がついて、おかしい気分になった。
「えーと、悟一くん、ごめんね? 何だか幹事みたいなことさせちゃって…」
 電話の向こうではきっと史哉が眉を下げているんだろうということが予想出来て、思わず笑ってしまった。
「平気ですよ。俺は暇な大学生ですからね。いざって時は無理やり大貴も手伝わせます」
 授業は自主休講ですよ、と言葉をつなげば史哉がほがらかな笑い声をあげた。
「まったく、悪い所が感化されちゃって」
「そんなことないですよ」
 一応否定の言葉を吐いてはいるけれど、感化されたと思っているのは悟一だってそうだ。あの頃の自分からすれば授業をサボるなんて考えもしないことだったろうけれど、関わった人間たちがあれだけ自由に、気楽に生きてたら影響もされる。そして、それを悪くないと思う自分がいるのも事実だった。
「お店は亜伊くんのところかな?」
 高校を出て調理専門学校へ行った亜伊は、現在とある店に入店して修行中の身の上である。大学に行くものと思われていたし、料理人を目指すなんて天変地異の騒ぎだったらしいが、少なくとも六人だけは納得していた。何せ、彼の腕を最もふるわれていたのがあの六人だったのだから。
「そうですね。オーナーがそういうのは好きらしくて、協力的なんです」
 暇の出来やすい大貴と悟一は、時々亜伊の店を訪れているので、オーナーとも知り合いだった。詳しい話をしていないために、血のつながらない兄弟だと思われているらしい。
「それじゃあ、栄介さんにも連絡しときますけど…ほんとに、史哉さん知らないんですか?」
「疑い深いなぁ。ほんとに僕も知らないよ?」
「…一体何してるんですか、あの人は…」
 出会った時から謎の多い人間ではあった。飄々としていて何でも軽々とこなしてしまう栄介は、一応大学は出たらしいのだけれど現在何をしているのかはまったくわからない。何を聞いても「内緒」としか言わないのだ。しかし、どんな時でも六人を見守っていることだけは絶対的に信用してしまっているのだけれど。
「久しぶりに全員で集まれるみたいだし…大貴くんの成人祝いもしようか?」
「そうですね…全員お酒飲めるわけだし」
「うわあ、大きくなったねー」
 まあ、あの頃僕は未成年だったけど、とつけくわえる史哉の言葉に、悟一もうなずいていた。出会った頃は高校に入ったばかりで、お酒が飲めるようになった自分のことなんて想像したこともなかった。それなのに、今こんな風に七人で酒を飲む算段なんてしているのだから不思議なものだ。
「そういえば、史哉さん大貴からのメール見ました?」
「んー、まだ見てない。見た?」
 パソコンの前に座っていた悟一は、先ほど大貴が送ってきたメールを呼び出す。「発見!」と書かれた下に記されたURLをクリックすれば、さっき見た画面が映し出される。
「千歳さんと秀人さん、ネット上でかなりの有名人です」
 史哉が電話の向こうで弾けるように笑った。それは早く見なくちゃ、と笑いの残る声で言うから悟一も同意した。
 高校を卒業してから、秀人と千歳は旅に出ると言って、日本全国旅行に出かけてしまったのである。バイトで貯めた金をはたいて買った車と、残りの金だけを持って、北から南へ大移動である。その様子をマメにメールで送ってくれていたのだが、それを元にして大貴が専用ブログを作り、最終的に二人へ管理をまかせた。そして、日本全国を回り終えると海外にまで飛び出していったのである。
 その様子を記したブログが地味に人気なのは知っていたけれど、大貴からのメールにはそんな二人のブログを紹介する大手ニュースサイト記事のURLがのっていた。ここに紹介されれば、ネット上での知名度はまたたくまにあがるだろう。
 旅に出る、と言い出した時悟一と亜伊は呆れ果てた。史哉と大貴はすごいと拍手をした。そして栄介は、大爆笑していた。だけれど全員知っていたのだ。反応は違えど、この二人が一緒にいるならどんな困難が襲いかかっても、笑って打ち返してしまうことを。二人が一緒なら、何だって楽しんでしまえるのだということを。だから心配なんてしていなかった。
「…ほんと、あの二人は自由ですね」
 秀人はともかく、千歳はもう少しマトモな人だと思ってたのに。そう言ったら、史哉がおかしそうに言った。
「千歳くんって、秀人くんと栄介さん足して二で割ったみたいな子だもん」
 その言葉だけで理解出来てしまうのもどうだろう、と思ったけれど、悟一はいたく納得してしまった。それから何だか楽しくなってきて笑いがこみあげてくる。恐らく史哉もそうなのだろう。浮かれたような声で、とりとめのない話をしながら二人は再会の日を思い浮かべる。ただ笑いあえるその日を、待ちわびる。


(そんな夢を、見たよ)