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Note No.6

小説置場

マエヘススメ

「遠い日のうた」


 前にしか進めない、とはよく言われる。ていうか前しか見えないんだもん。

 

 ガードレールに腰かけて、携帯をいじる。メール画面を出してちまちま文章を打っていくと、寒くて動きにくかった指先があったまっていく。ような気がする。あくまで気がするだけで、実際打ちにくさはあんまり変わんないんだけど。
 何となく出てくる鼻歌を歌いながら画面に夢中になっていたら、影が出来た。何だ、と思って顔を上げたら見知った顔があって思わず笑った。
「お、何? ちょうひっさしぶりじゃん」
「そっちこそ。何してんのテンジン。今、学校だべ?」
 柄シャツにだぶだぶのズボン、耳にはピアス。でも髪は短髪で真っ黒、の目の前の人間は去年までのクラスメイトだ。何か気づいたら学校を辞めていて、その後の消息は知らないけどとりあえず元気そうでよかった。
「うわ、嫌味なの? それ。アシオに言われちゃおしまいだー!」
「どーゆー意味だこら」
 笑いながら隣に腰かけると、アシオがはあっと息を吐く。学校を辞めてから何してたのかはしらないけど、まあ、とても楽しくてハッピーってわけじゃないらしい、ということはわかった。
「…テンジン、相変わらずうちのガッコの制服は奇抜ですなぁ」
「よく目立ちますねぇ」
 テンジン、というのは一部で使われる俺のあだ名だ。何でも名字の湯島から来ているらしく、学問の神様らしいけどご利益はなさそうだった。
「これ夜発光するんじゃねーかと思ったね」
「補導の時便利って?」
「そうそう」
 アシオが笑った。だけどどこか無理しているような気がしないでもない。でも、俺には何ていえばいいかわかんないから何も言わない。
「…テンジン、誰にメールしてんのそれ」
「んー友達?」
 疑問系なのは最近出会ったばかりだったからだ。駅でいきなり声をかけられて、女の子だったら逆ナン! て喜んだけど、残念男だった。しかも同い年、俺とは全然関わりない学校のヤツ。なのに、どうしてかよくメールしている。深く考えるのは嫌いだし苦手だから考えないけど、楽しいことだけはわかるからそれでいいんだ。
「ナオニシのやつなんだけど、ちとせっつーの」
 知ってる? と聞いたらアシオが目を見開いて叫んだ。
「彼女かっ!」
「残念オトコですー」
 紛らわしい名前だとは俺も思うけど、実際かわいくもなんともない、普通にオトコの顔してるんだけど、千歳って顔だよな、と思う。何となく。
「同中?」
「んーん、駅で会ってメアド交換して、よくメールして遊んでる」
「なんじゃそら」
 アシオが心底呆れたように笑って、俺もそうだよなぁ、と思う。どういう関わり方してるんだよ、と自分でも思う。思うんだけど、どうしてかそれでいいと思っている。だから思いっきり笑って言った。
「楽しいからいーんだよ」
 どうしてかなんてわからないけど、一つだけはっきりしているのはわくわくしてどうしようもないってこと。俺には目の前のアシオに何て声をかければいいかもわからないのに、あいつを笑顔にすることだけは出来る気がする。ていうか、俺が楽しかったらあっちも絶対楽しい。ような、気がする。
「…お前はほんと、前向きだよなぁ」
 はあああっとため息らしいため息をつくので、一応元気出せよ、という意味で肩を叩いた。何で落ち込んでるのかも知らないし、どうしてため息ついてるのかもわからないけど、出来れば楽しい笑顔をしていてほしい。
「いつでも前向いてる感じがする」
 アシオが笑ったけど、それは少し笑顔じゃないような気がした。眩しいみたいな顔をしていて言うけど、俺にはそれをどう返せばいいかなんてわからない。もしこれが千歳だったら、どうにかなりそうな気はするんだけど。でもわからないから、素直に答える。
「てゆーか前しか見えない」