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Note No.6

小説置場

Setup


 どういうわけか、隣のコンビニでバイトしている秀人と最近よく顔を合わせている気がする、と亜伊は思った。元々シフトがかぶりがちだったので、顔見知りではあった。さらに人懐っこく話しかけてくるタイプだったし、それに付き合っていたら、いつの間にか休日までたまに会っている始末だ。
 さらに最近では、秀人の友達だという人物までくっついてくる。同じ高校なのかと思えばそうでもなく、じゃあ中学の同級生かと言えばそれも違うと言う。駅で会ったんだよーというだけのくせに、まるで十年来の友達であるかのように気が合っていて意味のわからない二人だった。付け加えるならば、そう長い付き合いでもないはずの秀人とその友達と一緒にいて、違和感なくしっくり来ていること自体意味がわからない、と思っている亜伊なのだけれど。
「つーわけで亜伊ちゃん、今日はどっこがいー?」
 満面の笑みで秀人が尋ねると、秀人の友人である千歳が「俺今日割引券持ってきたー」と応える。秀人が「さっすがちっとせー!」と笑えば、「まあな!」と千歳は胸を張る。亜伊はため息を吐いた。
「…いい加減別の所がいいんだが、俺は」
「え? だから選んでって言ってるじゃん」
「マックとモスとロッテ、全部揃ってるぞ?」
 びらり、と割引券を広げる千歳。確かにそこには見覚えのあるロゴマークとメニューがあったが、亜伊が言いたいのはそういうことではない。
「いい加減、ファーストフード以外がいいっつってんだよ!」
 叫ぶと、二人はなあんだ、と笑った。全然応えていないことが一目瞭然だった。元々、秀人は頭のネジが数本緩んでいるんじゃなかろうか、というくらい突き抜けているヤツではあった。それが千歳と行動するようになってから、緩んでいたネジはついに外れてしまったらしい。秀人の頭にはもはや楽しいこと以外転がっていないのだろうし、目には面白いものしか映らないのだろう。
「じゃー、亜伊どこがいい?」
 一見するとマトモに見える(まあ秀人よりはマトモだけれど、比べる対象が秀人なら、恐らく生まれたばかりの赤ん坊だってマトモになる)千歳が、軽やかに尋ねる。年下のはずがなぜか呼び捨て。最初は長久保さんだったはずが、気づいたら名前呼び捨ててで、やたらしっくり来るので亜伊もそのまま放置である。
「亜伊の行きたいとこ付き合うわ」
 にこにこ、と言えば秀人が「おもしろそう!」と叫ぶ。秀人は千歳の提案に乗っかっただけだが、千歳は一応配慮が見られた。何だかんだと言いながら、引き際と踏み込んでいい線・いけない線をわきまえているのだ。これだから見切りつけられないんだよな、と思いつつ亜伊は口を開く。
「駅に近い場所ならいい所がある」
 高校に入学した際ふらふらしていて、いい場所を見つけたのだ。適度に人がいて、それでいて騒がしすぎない。あと、コーヒーとケーキがおいしい。
「秀人、お前騒いだら殴るから」
 あの静寂をぶち壊されたらたまらない、と思うけれどそういう所だけはしっかりしているので平気だろう、と亜伊は踏んだ。静寂が気に入れば黙っていられる人間なのだ。そして恐らく、秀人はあの空間を心地よく感じるだろうと、根拠はないが確信している。
 二人を連れて通いなれた階段を登る。亜伊がバイトしているファミレスのデザートを制覇している二人なら、甘いものも苦ではないだろう、とケーキが美味いぞ、と伝える。やった! と二人は小さく叫んで思わず笑ってしまった。扉を開けるとカロン、と鈴の音がした。ここへ来るようになってからすっかり顔を覚えてしまった店員が、にっこり笑いながら「いらっしゃいませ」と言う。耳に心地良い声は、ここで働く誰のものより好きだった。今日はツイてるな、と思いながら三人、と告げればいつくしみに溢れた笑みを乗せて、席へと案内してくれるだろう。