Note No.6

小説置場

コンビネーション・カラー

 正門前で待ち合わせたのは、行き先が山の方だったからだ。園田たちの家は一応町の中心である、駅の方にあった。しかし、今回訪れる成島の家というのは、町の中心からは少し離れた場所にあった。山奥とは言わないけれど、山に近いことは確かだ。他の三人の家からだと少し遠回りになるが、四人全員が理解出来る待ち合わせ場所で、家に近い所と言ったら学校くらいしか思いつかなかった。
 そういうわけで待ち合わせ場所は正門前だったのだけれど、現在待ち合わせ時刻をすぎていると言うのに人影は二つしかなかった。
「…遅い」
 苛立たしげにつぶやいたのは仁羽で、隣にいる園田はまあまあ、と笑顔を浮かべながらなだめている。血管浮いてるよーと言う言葉は完全に茶化していて、面白がっているのは明らかだった。本当に短気だな仁羽って、と思っていることは間違いない。
「何で成島が来ねえんだよ」
「メノウ様に何かあったんじゃないの?」
 もう一人の不在については当たり前のようにスルーだった。二人とも、最後の一人である遠山が定刻通りに来るなど微塵も思っていない。
「にしたって一応アイツ主催だろ。何で肝心のヤツがいねえんだ」
 いらいら、と舌打ちしながら言われた台詞に園田は苦笑いしながら肩をすくめるしかない。まあ、何となくこうなる気がしてたから手土産生モノにしなくてよかったよなー、と自分の手にあるものを何の気なしに眺めていたら、仁羽が棘を引っ込めた声で言った。
「つーかお前は遅刻しねえのな」
「…それってどういう意味か聞いていいわけ、俺は。何、遅刻しそうってこと?」
「時間にルーズそうだから」
 あっさりと肯定されて、「仁羽ってばひどーい」と叫ぶ。冗談に紛れ込ませながら、俺はそんなことしませーん、と笑う。
「俺、意外とそういう所しっかりしてるよ?」
 仁羽の中の俺って何なの、と茶化しながら言った。「ばぁか」と言われるかと思った。眉を寄せて、心底嫌そうな、苦々しげな顔をして吐き捨てられるとかと思った。
「そうだな」
 それなのに仁羽は、あっさりと肯定した。当たり前のように、棘のない声のままで「そういやそうだった」とうなずく。あいつらに比べたらお前は常識人だった、と言って心底納得しているので、園田は「…そうデス」と軽く答えるしかなかった。
 二人でしばらくどうでもいい話をしていたら、前方から人影が近づいてくることに気づいて、園田は手を振った。それが目的の人物だとすぐに理解したからだ。小さな人影は、跳ねるように走ってくる。その後ろにいる人影は走る素振りを微塵も見せないので、二つの人影の距離は離れていくばかりだ。
「ごめんねっ、園田、仁羽! ちょっとメノウ様が急用でねっ」
 案の上の理由だったため、二人は華麗にスルーした。別に平気、と園田は笑って仁羽はあからさまに不機嫌な顔で、ぶつくさと文句を言う。成島はごめんね、としおれたように返事をしていたが、仁羽の文句が終わる頃には元気を取り戻していた。その頃には、のたのたと歩いてきていた遠山も合流したので、やっと四人が揃った。それを確認して、成島は「じゃあうちこっちだから!」と先陣を切って歩き出す。
「あ、園田。それってジロウゼットのTシャツ?」
「お、さすが成島! わかってくれる人がいた!」
 肩を並べて歩き出すと、成島が園田の着ていた服に興味を示した。それがどこかのブランド物らしいことは理解出来るが、後ろの二名にはちんぷんかんぶんである。
「俺もそれは悩んだんだけどね、この前は見送っちゃったの。今度残ってるかなぁ」
「まだ行けると思う。jbだったら結構長い間置いてあるし」
「だよねぇ。…赤と青、どっちか悩まなかった?」
「悩んだー。困るよなーセットで出すのは嬉しいけど、逆にこっちはいいんだけどあれもいい、みたいなさー!」
「あのね、かぶってるのあるんだよ。だからちょっと見ない?」
「うわ、いいの? ありがたい」
 二人の会話は流れるように続いていくが、後ろを黙々と歩く仁羽と遠山にはまったくついていけない類のものである。一体何の話をしているのか、皆目検討がつかない。遠山はあくびをしながらてろてろと歩く。歩調が遅いので、距離が出来そうになるのを見咎めた仁羽は、しゃきしゃき歩けよ、と声をかける。
「…大体、遅刻したんなら走ってくるぐらいの気概を見せろっつーんだよ」
 俺たちが待ってんの見えただろ、と言って説教というよりはいらいらとした愚痴モードに入りそうだ。遠山はあふ、と一つあくびをしてからつぶやく。
「…仁羽って…きっと、将来はげるよね……」
「……はげねえよ」
 返答に間があったことから、気にしてたんだな、ということを悟った遠山は人の悪い笑みを浮かべる。しかし、あんまりいじると後が面倒だということを知っているので、今日はつっこまないでいてあげようと別の話を引き出した。
「…園田が持ってるの…カレンのバームクーヘンだね…」
「…見ただけでわかるのかよ」
 見慣れてるからね、とつぶやく。両親が客用に常備しているので、パッケージを見まごうことはない。それなりにおいしく、それなりに日数も持つし、値段も手ごろで、量もほどよい。手土産には充分だろう。
「…手土産、用意してくるのが…園田らしいよ…」
 消え入りそうな声でつぶやかれた言葉だけれど、仁羽は心から同意した。