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Note No.6

小説置場

スマイル、フレンズ!

 家にやって来たのは三人の男の子だった。一人だと思っていたので、素で驚いた。出迎えに玄関まで行ったら、弘光はきらきらとした笑顔を浮かべて「おねーちゃん、ただいま!」と笑った。かわいい。
 弘光は、後ろからやって来た男の子に私のことを紹介し、続いて出てきた母親にも三人を紹介する。
「えーとね、こっちが園田!」
 最初に紹介されたのは、三人の中で一番背の低い少年だ。もっとも、弘光に比べれば格段に背は高い。園田、と呼ばれた少年はぴょこん、とお辞儀をすると箱を差し出す。
「えーと、これ、どうぞ!」
 まっ白い箱に、赤いリボンの絵が描かれている。菓子だということがわかって、母親は恐縮しながら受け取る。手土産持参の男子中学生なんぞいるのか、と思ってまじまじ見てしまった。侮れない。さすが弘光と友達になれる子だ!
「あら、ありがとうね。これ好きなのよ」
 にこにこ、と甘いもの全般大好きな母親が言うと園田くんは良かったです、と笑った。目の下を赤く染めて、光を放つような笑みだった。細められた目に溜まった光が、やさしい。軽い癖っ毛の髪を照れるようにかいていて、大変好ましい笑顔をする男の子だ。
「それで、こっちが仁羽!」
 続いて紹介されたのは、眼鏡をかけた男の子だ。背は真ん中で、黒髪ストレートで銀縁眼鏡をかけている容姿は、まんま「優等生」だった。勉強できます、と体現している。
「仁羽です」
 すっとお辞儀をするしぐさもなんだか堂に入っている。大人の相手も慣れているのかもしれない。後で聞いた話だと本当に勉強はできるらしいので、まさに「優等生」なのだろう。そう言ったら、弘光は楽しそうに笑っていたけれど。
「最後、こっちが遠山!」
 言われて出てきたのは一番背の高い少年だ。ひょろひょろしているので、ちゃんと肉が付いているのかと心配になってしまう。
「どうも…」
 消え入りそうな語尾に、目にかかるくらいの前髪のせいで表情はよく見えない。何だか眠そうで、寝不足なんだろうかと思ったら弘光がはつらつとした声で言う。
「遠山はいつもこんな感じだよー」
「つーか、お前人さまの家に来てんだからしゃんとしろよ」
 弘光の声にかぶるようにして、仁羽くんが言う。言い草が親か! という感じで思わず笑ってしまった。園田くんはそんな三人を楽しそうに見ていて、私が見ていることに気づいたのか目が合った。
 一瞬虚を突かれたような顔をしたけれど、すぐに笑った。花が開くような、という言葉がぴったりだと思った。にこにこ、と楽しそうではあったけれど、私と目が合った瞬間。深い場所から何かがあふれ出すような、笑みを広げる。それを見て、平気だな、と思った。きっと弘光は、大丈夫だ。こんな風に笑ってくれる子がいるなら。弘光はきっと大丈夫だ。
 しばらく三人はドツキ漫才のようなことをしていたけれど、母親が「あらあら、あがってちょうだい」と促す。そういえば靴も脱いでいなかった、と気づいて弘光ともども家へあがる。
「…あ」
 そのまま弘光の部屋である二階へ行くのだろうと思ったのだけれど、ふと気づいた。階段の途中にある出窓には、わりと大きなぴんくのあみぐるみが置いてあるのだ。両手で抱えられるくらいだけれど、普段弘光が持っているものよりは大きい。しかも、「鎮座」というにふさわしい状態で飾り立てられている。今更ドン引きはしないだろうけれど、大丈夫なんだろうか。
 思って、後ろ姿を確認してしまった。
 弘光が先頭を切って進んでいく。最初にそれに気づいたのは、園田くんだった。どうするかな、と思ったら。
「あ、でかいメノウ様だ」
 いたって普通に声をあげて後ろの二人に言うと、二人とも当たり前のように受け取って「そうだな」とか何とか返している。
「おじゃましまーす」
 一言、メノウ様に言って通り過ぎる。続く仁羽くんは軽く目礼をして、最後の遠山くんはそっとメノウ様に触れた。撫でるように頭を触り、驚くほどやさしく離れていく。
「……」
 すとん、と納得した。ああこれは。これは、もう、全然、気にすることないじゃないか。これはもう、心配なんていらない。あの子たちがいるなら、きっと、いつだってあの子は笑顔になれちゃうに決まっている。