Note No.6

小説置場

はぴ、はぴ、ばーすでー

 クリスマスまであと二週間、という時期だった。瑞原商店街もささやかながら活気づいているこの時期、人混みを避けた俺は裏通りに入った。普段あまり通らない上、クリスマスソングが流れている中裏通りを通るのもなかなかわびしいなぁと思いながら歩いていた所為か、途中で道に迷った。
 と言っても、生まれてからずっと住んでいる町である。どこを通っているのかわからなくなったくらいなら、どうにかなる。適当に歩いていればいつか見知った場所に出るだろうし、ちょっとした冒険だと思えばいいのだ。
 そんなことを思いながらふらふら歩いていたら、どうやら進む方向を思いきり間違えたらしい。なかなか知った道に出ない。それ所か、見慣れない景色ばかり現れてくるのでそろそろマズイかもなー、なんて思い出した時だった。ふと前方に明かりが見えてきてやっと住宅地を抜けたか! と思ってそっちへ進んでみたら、小さな店の並ぶ一角に出た。
 赤とかオレンジとかなんだかかわいらしい色合いの庇、煉瓦つくりっぽい建物、木製の扉、ドアチャイム、ぼんやりと灯る明かりは電灯というかランプ。そんな雰囲気の店が並んでいて、商店街というよりものすごく異国風な感じだった。はて、と俺は首をかしげる。店先一つ一つを覗き込んでみると、あったかそうなマフラーだとか帽子だとかがあったり、毛糸の玉と編み棒らしきものが売っていたり、女の子が部屋に飾っていそうなかわいらしい動物の置物があったり、石をたくさん売っている店があったり。そこでやっと、そういえばクラスの女子がこういう、かわいらしい店がたくさんある場所の話をしていたような、という程度の記憶を脳みそが引っ張り出してきてくれた。ああそうだ、雑貨屋とかなんかそういう感じの店があつまっているという…。しかし、俺は興味がないので小耳に挟んだ程度だから、場所なんて知らない。こうなったら、店の人に道を聞くしかないな、と思ってぐるりと辺りを見回した時だった。
 たくさん並んだ店のうちの一つ。ショーウィンドウの向こう側にあるものに目が吸い寄せられ、思わず張り付く。
 その店はおそらくぬいぐるみだとかを売っているのだろう。中にはクリスマス用のプレゼントを買いに来た人間がいるのかもしれないが、今はそれが目に入らない。しゅわしゅわの雪みたいなスプレーで書かれたMerry Christmasの文字の向こう側。こげ茶の揺り椅子の上にでん、と鎮座しているのは巨大なうさぎだ。ぴんく色の耳、黒色のつぶらな瞳。何よりその体は布製ではなく、何かで編みこまれている。いわゆるうさぎのあみぐるみが、かわいらしいぴんく色の体で椅子に座っていたのだ。
「…メノウ様…?」
 うさぎのあみぐるみは、見知ったあるものにとてもよく似ていた。というか瓜二つと言ってもよかった。ほかの人間より見る機会は多いし、手に取って見た回数はかなり多い。だから、目の前に鎮座しているうさぎのあみぐるみがとてもよく似た代物だということはよくわかる。そんなことが判別出来るまでしょっちゅう見てたのか、という事実には都合よく目をつむり、値段を見た。そして固まった。
「…にまんごせんえん?」
 なぜ? なんでこのあみぐるみ、そんなに高いんだ。確かに、両腕で抱えきれないほどでかいんだが。でかいんだが、それにしても何でこんなすんの!?
 ええうそー、と思いつつこれは縁がなかったということで、とショーウィンドウから離れた。俺はこれによく似たあみぐるみを持つ人物を知っている。何より大事にしていて、本気で信じて崇めていて、大事に大切に思っている。
「……」
 今月頭に誕生日を迎えていたのだと知ったのは最近だ。別に誕生日の教えあいっこなんてことはしないから、知らなくても当たり前なのだけれど。ふとした世間話で、クリスマスと誕生日が近いとプレゼント一つになるのか、なんて話をしている時に出た話だった。「十二月の最初だけど、普通に二回もらうよ?」とか言うから知ったに過ぎない。もう過ぎていて「おめでとー」と言って、持っていたポッキーをプレゼントした。それだけで本気で「ありがとう」と笑っていた。別に、これを送らなかったからどうこうってことになると思っているわけじゃない。大体高すぎるし、中学生の財政事情的には手が出るわけない。
 わかっている。頭ではわかっているんだけれど。俺の足はショーウィンドウまで戻っていって、硝子越しに巨大メノウ様(仮)と向かい合うことになる。
 俺は一つため息を吐き、携帯電話を取り出した。別にプレゼントなんて、何だっていいのだ。ポッキー一つであれだけ本気で喜ぶ人間だし、何か特別に用意したとしたらそれだけで、こっちが悪く思うくらい喜ぶに決まっている。だけれどたぶん、それを誰より知っているから。このメノウ様をプレゼントしたら、もっともっと喜んじゃうんだろうな、ということを痛いほどわかっちゃっているのだ。
 メールを作ると、二名に送信する。文面は簡潔に「巨大メノウ様が二万五千円で売られてるんだけど」だ。それだけで意味がわかるかはわからないが、とりあえず電話は来るだろうから待つことにする。俺の頭はすでに、二万五千を三で割った額をどう工面しようか、という計算を始めている。