読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

Note No.6

小説置場

ヘブンズゲートは見えたかい?

 自分でもイメージが貧困だとは思った。一面の花畑を進むと、ごろごろと石の転がる河原に出て、目を凝らしていたら去年死んだおばあちゃんがこっちに来るなと手でも振ってるんじゃないかと思ったくらいだ。だけどそんなことはなくて、見えているのはふわふわとした色をした花の群れと、綺麗に透き通った水の流れる川だけである。
 周囲を見渡しても何もなかったが、全体的に輪郭がにじんでいてはっきりしない風景の向こうに、何かが揺れているような気がする。アレは一体なんだろう、と思いながら近付いていくと、ギリシャ神話とかに出てきそうな、真っ白い門がどーんと構えているのが見えた。
 最近は川の渡しも流行らないのかもなぁ、と思いながら自然と足が進んでいる。
 意外と記憶ははっきりしていた。最後に見たのは、目を丸くしている成島と遠山と仁羽の顔だった。あんな顔は貴重だろうなと思う一方、もう見ることはないのかもしれないとも思う。別に、正義の味方になるつもりなんてなかった。自然と手が出たというわけでもないし、助けなければと思ったのも違う。何だかごく当たり前に、あの子が落ちたらきっと痛いだろうと思って手を出しただけだった。
 小さくても重かったあの子は助かったろうか、と考える。落ちていく恐怖より、滑り落ちる肩と背中が痛かった。頭に降って来た衝撃は、痛みではなくただ重かった。それを感じた瞬間、意識はブラックアウトして、気づいたらここである。
 俺は再び周りを見た。前方にある白い門、周りに咲く花の群れ。とても綺麗だ、と思った。太陽は見えないけれど、辺りはほんのりと明るくて心地いい。ここはとても気持ちのいい場所だ。先に行ったらもっと気持ちのいいことが待っている気がする。ぼんやりとした頭でそんなことを考えながら、無意識に足が動いている。あの先へ行ったら、きっと何もかもが上手く行って、悩むことも苦しむこともないんだろう―。
 そう思って前に行こうとした瞬間、不意に前方に障害物が現れた。本当に、自分のイメージは貧困なのだと思った。思ったけれど、目の前にあるものを認識した瞬間に爆笑してしまった。
 校舎くらいの高さまであるのは、巨大なうさぎのあみぐるみだ。目の覚めるようなぴんく色をしていて、見覚えのあるつぶらな瞳をしていた。
「…メノウ様」
 名前を呼ぶと、うなずいた気がした。そして、ぼんやりと聞こえる声に俺はうっすらと笑みを浮かべる。ああ、俺の名前を呼ぶ声がするよ。
「こっちに行けばいいかな」
 今歩いてきた方向を示せば、メノウ様はうなずいたようだった。俺は、今まで進もうとした場所に背を向けて歩き出す。ゆっくりと、花の咲く地面を踏み締めながら歩いていく。
 景色が段々と霞んでいくのを感じながら、俺は思っている。成島に会ったなら、俺はメノウ様と会話をしたんだと言ってやろう。花が綺麗だったけど明るすぎて、昼寝には向かないみたいだと遠山に言おう。それから仁羽には、天国の門が見えたんだと言ったら、いったいどんな顔をするだろう?

 

Title:夜風にまたがるニルバーナ(お題サイト)より