Note No.6

小説置場

午下

 小テストを返却する社会科教師の声をBGMに、成島弘光は窓の外を眺めている。変わり者として有名な社会科教師のテストは、妙な問題が多い。そのため成績はあまり芳しくないようで、教室は騒がしい。しかし、弘光は気にしない。
 点数を隠したり、問題について話したり、関係ない話題を広げたり、雑多な教室の中で、弘光は一つも耳に入っていない顔で窓の外を見ていた。
 実際、弘光は周囲のことを完全にシャットダウンしていた。他人を拒絶しているわけではなかったけれど、考え事をしている弘光には全てのことがどうでもよかったのだ。
 今頭の中にあるのは、自室に置いているメノウ様の部屋をいかに改装するか、というプランだった。目は窓の外を見ているが、そこに映っているのは自室の一角に作られたメノウ様の部屋とでもいうべき空間だ。
 今メノウ様が寝床としているのは、一番上の姉のお下がりである人形の家から拝借しているベッドである。プラスチックの安物とは違って、重厚な木製ベッドを弘光は気に入っている。そのベッドに合わせて、今現在はカントリー調としてメノウ様の部屋を統一している。しかし、そろそろ二ヶ月に一度の模様替えをする時期なのだ。
 果たして、次はどんな部屋にしつらえるべきか。メノウ様は特に性別はないけれども、やはり女の子向けメルヘン調で行くべきか。この前市販の人形ベッドを改造して、天蓋つきの豪奢なものを作ったのだ。きっとメノウ様に似合うだろう。
 しかし、と弘光は思案顔になる。その部屋は確か前々回模様替えしたのではないだろうか。頻繁に同じ部屋にするというのも芸がないし、何よりメノウ様に失礼である、と判断した弘光はメルヘン調を却下した。
 案外スポーティーなものもいいかもしれない、と考える。メノウ様をくれた真ん中の姉だって、もしかしたら運動をいっぱいしているかもしれないし。そしたら、部屋に運動用品がたくさんある部屋でもいいのではないか。最近そんな部屋にした記憶もないし、丁度いいだろう。それなら、一体どんな部屋がいいだろうか。スポーツと言ったら何がいいだろう。メノウ様はどんな運動が似合うのか、いやこれはどんな運動でも似合いすぎる。メノウ様のことだから、どんなスポーツだって万能にこなしてしまうに違いない。
 結局、ぐるぐると考え込んだ結果、バスケット、スケートボード、テニスバージョンを作ることにした。しかし、これは用具を取り揃えるまで時間がかかるし、せっかくなので三つを連続で展開したい。今回の模様替えから始めるには、準備する時間が短すぎる。急いて拙いものが出来るよりも、遅くともきちんとしたものを揃えたい、と考えてとりあえず今回はパスをすることにした。
 それなら、と難しい顔をして弘光は考える。一体どんな部屋がいいのだろう。やはり、今までにない雰囲気のものがいい。シックな部屋やアジアンはやったことがあるし、そうではないものがいい。
 眉を寄せて窓の外を見ていた弘光は、ふと息を吐いた。二階から見る窓の外に張り出した枝に、小鳥を見つけたからだ。鳥に詳しいわけではないけれど、鶯ってこんな鳥じゃなかったっけ――、思った瞬間閃いた。
 そうだ、今回の模様替えは和風にしよう。ベッドばかりじゃきっとメノウ様も飽きちゃうもんね!
 結論を下した弘光の判断は早い。早速ノートにメノウ様の部屋和風バージョンを書きつける。寝る所は布団で、周りには障子もほしい。明かりは行灯なんてあるといいな。文机とかちりめんもいいかもしれない。あと、畳もあったらいいけれど。もうすぐ駅の裏通りに雑貨屋の集まる通りが出来ると聞いたけれど、和風小物はあるだろうか。オープンはいつだったろう。
 頭を悩ませながら、今までにない和風バージョンに思いを馳せていた弘光はまるで気づかなかった。後ろから呼びかける声など、耳に入らなかったのだ。
「おい」
 だから、突然肩を掴まれた弘光は心底驚いた顔をした。目を開いて振り向けば、クラスメイトが顔をしかめて立っていた。周囲に対して興味がある方ではないけれど、この顔は知っている。小学校から同じで、何かと有名人だったし。
「…仁羽、どうしたの」
「お前呼ばれてる」
 言うと、視線で教卓を促すので、そちらを見れば席を立って教師から小テストを受け取るクラスメイトの姿がある。
「さっきから呼ばれてんだよ。返事しねぇから飛ばされた」
 いらいらとした様子でそう言う。どうやら、社会科教師は物怖じすることなく、仁羽に言付けを頼んだらしい。
「…そっか。仁羽、僕の後だもんね」
 恐らく、中々取りに来ない弘光に業を煮やして次の仁羽を呼んだ。そうして、席に戻ったら弘光に声をかけるよう頼んだのだろう。まあ、仁羽だったら僕のことも呼べるもんね、とこっそりと胸の中で弘光は思う。
 他のクラスメイトであれば、恐らく自分と関わろうとしないだろう、という確信があった。周囲から敬遠されていることがわからないはずがないのだ。害がないので構わないと放ってあるし、メノウ様を手放すことを考えたら天秤にかけるまでもなく、クラスメイトたちとの親交を放棄する。決してそれをいいことだと思っているわけではないけれど、どうしようもないのだ。
 弘光は席を立ち、教卓へ向かう。それを見た仁羽は、自分の用は済んだと判断したらしく後ろの席に座る。弘光は、帰りに雑貨屋へ行ってみようと思いながら、小テストを受け取った。