Note No.6

小説置場

昼下がりの風景

 あの「ノノト・シュウゴ」とよく付き合えるね、としょっちゅう言われる。研究室に顔を出すだけではなく、休日も時間が合えば出かけることもあるし、いい本を見繕ってもらうこともある。試験前にはスパルタな補習をしてくれたり(頼んでないけど有難いので受けている)、気づいたら自主的な飛行訓練が始まってたりすることもある。
 おかげで地味に成績は上がるし、無駄な力を使わなくなったおかげで飛行持続時間も跳ね上がった。さすがはシュウゴと言うべきか、人格的に問題はあるけど教師としては大いに能力があるらしい。
 それを知っていても、「あの」ノノト・シュウゴとよく付き合えるね、という結論に変わりはないらしい。確かに成績は上がるだろうし、能力も磨けるだろうけどそれにしたって、ということだろう。
 いや確かに、ほとんどの場合学校にいるのとあまり変わらないことはしてますけど。でも、いつもそればっかりじゃないし、街に出て本屋に行ったり原っぱで空を見上げたり、何でもない話をしたりもするんですが。
 思うけれど口に出さずしまっておくのは、言っても意味がないからだ。最初は一応、シュウゴもわりと普通の人間ですよ、アイスとか好きですよ、とか一般人アピールもしてみたんだけど、あまり意味がなかった。最初に「あのノノト・シュウゴとよく付き合えるね」と言う人は、その段階ですでに自分なりの結論を出してしまっているのだ。シュウゴは、自分たちとは別世界の住人で、傲岸不遜で生意気な、関わり合いになりたくない人間だと。
 その解釈はほとんど間違っていない。というか大正解だ。噂に聞いていた通り、もしくは噂以上に、ノノト・シュウゴは傲岸不遜で生意気、唯我独尊にして自分の能力に絶対的な価値を見出している。一つ反論すれば十の反駁が帰って来るし、己の能力をこの上もなく誇っているから、負けん気も強い。いつだって怯むことなく、真っ直ぐと突っ込んでくる。それは確かにその通りなのだけれど。
「はい、ミルクナッツ」
 公園のベンチに腰かけているシュウゴに、屋台で買ってきたアイスを差し出す。シュウゴは仏頂面で「自分で払うっつーのに」とぶつぶつ言っているが、無視した。この前大きなレースで優勝したから懐が潤っているので、アイスの二つ三つどうってことはない。
「シュウゴはもっと買い食いとかしたらいいと思うよ」
 私だってそんなにしょっちゅう買い食いする人間じゃない。だって勿体無いし。それでも、リッシアとかに連れられて来るので、ここのアイス屋さんのオススメ商品が何なのかくらいはわかるし、不定期にダブルアイスが安くなることだって知っている。
 だけど、シュウゴは一直線に進級することだけしか考えてないから、こんな風にアイスを食べてのんびりしたことなんてないのだろう。実際、ここのアイス屋のことは知っていたけど食べたことはなかったし。
「そしたら、ノノト・シュウゴってアイスも食べるんだな、とか思われるし」
 あまりにも学校内にいる時間が長すぎて、シュウゴは他の人間との接触が極端に少ない。その所為で、若干都市伝説みたいな扱いになっている気がする。学校の広報誌に載る成績優秀者一覧だとか、飛行能力値更新記録者とかで、顔写真と共に出るから、存在そのものは確認されてるんだけど。何というか、性質に関してはほとんど架空の人物みたいな扱いだ。
 だから、「あのノノト・シュウゴ」なんて言われるのだろう。切れ端だけをつなぎあわせて、それだけがシュウゴの全てだと言うように。
「別にいいだろ。俺がアイス食ってることを知らせて意味でもあるのかよ」
 ぶっきらぼうに言い放つ。だけどアイスを舐めつつそんなことを言われても、全く怖くない。むしろちょっとほほえましい。私は肩をすくめて答えた。
「意味はあると思うよ。シュウゴがいたって普通の人間なんだってわかるじゃない」
 傲岸不遜で生意気、唯我独尊にして己の能力を誇る天才少年。間違ってはいない。間違ってはいない、けど。
 シュウゴは私と同じようにアイスを食べるし、美味しいって思うのだ。夜になれば眠くなるし、無理をすれば体に障る。ロボットでも架空の人間でもない、いたって普通の人間だ。食事を抜いたらお腹が減るし、美味しいものが好き。実験が上手く行ったら嬉しいし、失敗すればイライラする。何も変わらない、ただの人間。人よりもいっぱい努力をして、阿呆みたいに頑張っちゃう、そういう少年。
 しかし、シュウゴは片頬を上げて笑った。完全に馬鹿に仕切った笑みで、「くだらねぇ」と吐き捨てる。
「俺がどんな人間か、なんつーこと、わかってどうすんだよ」
 何て思われようが俺には関係ない、と言いきるのはまったくの本心だろう。わかっているから、だからこそ思うのだけれど、きっとシュウゴはそんなことどうでもいいのだ。
 確かにシュウゴは生意気だし、自分の力を謙遜もしない。卑下するなんてこと有りえないし、己の能力をおおっぴらに誇示する。それが目障りでうっとうしいと思われていることも知っているし、その気持ちもわかる。だけど、私は思ってしまう。どうしたって思ってしまう。
「…美味しい?」
「まあな」
 脈絡なく尋ねると、あやふやな肯定が返ってくる。でも、「マズイ」と切り捨てない所から考えるにきっと美味しいんだろう。素直じゃないんだから。
 私は小さく笑いつつ「それはよかった」と答えるけど、こんな所を知ってくれたら、と思う。ただの生意気な人間じゃないってわかってもらえたら、「あの」なんて言われなくて済むようになったら、と思う。天才少年じゃなくて、ただのノノト・シュウゴとして笑っていられる日が来たっていいと、思っている。