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Note No.6

小説置場

幕間――世界一尊大で豪然な一族の主による独白

「Crossing Game」

 世界はいとも容易かった。いくつか複雑で面倒な部分もあったけれど(教会のヤツラとの話し合いとか貴族どもとの食事会とか!)、概ね俺にとって世界とはあくびが出るくらい楽だった。
 何せ俺は生まれた時から、自分の力の使い方をよく知っていたし、それを使いこなす努力も苦ではなかった。というか、新しい娯楽感覚で最高に楽しかった。加えて体力的にも体格的にも、俺は自分の力を存分に発揮出来る、恵まれた資質を持っていた。要するに、容量のデカイ器を持っていた上に、並々注げる中身も腐るほど蓄えてあった、ということだ。
 そしてもう一つ、力の特異さと強大さを、俺はよく知っていたと思う。
 気づいた時から、誰に教わるのでもなく、俺の持つこの力がありふれたものではないとわかっていた。俺が顔を合わせるヤツラ誰一人として、これ以上の力を持った者はいないし、使いこなせない。俺とあいつらは違うのだと、きっと言われる前から理解していた。言葉ではなく血肉で。知識ではなく体験として。ただ純粋に、きっちりとした線引きが俺には出来ていた。
 だからどうだ、ということはない。時折顔を合わせる貴族たちは、確かに俺寄りのヤツラではあった。似たような力を持っていたし、それを使いこなしていたし、たぶん俺に一番近いのはこいつらの誰かなんだろうなぁ、とは思った。思ったけど、やっぱり違うんだとわかった。
 とてもよく似ている。外見の話じゃなくて、同じような力を持って同じような物を糧にして力に変えるこいつらは、とても俺によく似ている。だけど、だけど、違うんだと心が叫ぶ。全身の細胞が、お前じゃないと叫んでいる。違うんだ。確かにお前らと俺はよく似ているけど、だけど。
 だってお前らは、俺とおんなじ景色なんて見ちゃくれないだろう?
 俺たちは吸血種なのだと言う。周りにいるのは人間で、いちいち食物を身体に入れないと力に変えることが出来ない、面倒な種族。俺たちは、自分自身の血液を自分の力へ変えることが出来る。理想的な循環、永久機関を持った生命体。完璧なる命。
 誇らしげにあいつらは言ったけど、俺は全然うなずけなかった。だってそれなら、俺と同じ種類だって言うなら、どうして俺のこの飢えがわからないのだろう。渇望が、喉から手が出るほど欲しい物が、わからないって言うんだろう。
 種族なんてどうでもよかった。吸血種だっていう貴族の御託なんかより、別の種族だっていう人間の見世物の方が100万倍も楽しかったし、貴族の正式な晩餐会とかで出される何年物の血液なんかより、町の屋台で食うくだものの方が一千万倍は美味い。
 俺はこんなに楽しいことを知っていて、それは人間が作った物で、貴族の誰かと一緒にいるんじゃ味わえない。だけど、それだけだった。楽しいことはたくさんある。何回だって手を伸ばして、何度だって大笑いして満足した。だけど、いつだって一人きりなんだ。
 俺は自分の力をよく知っている。強大さと特異さは身に染みているから、一人でだって生きていけるし、世界が滅んだって俺だけは生き残る自信もある。生物全部息絶えたって、きっと俺は一人きりで生きていけるんだろう。
 それが寂しいとか悲しいとか苦しいわけじゃない。だって俺は最後の一人になっても生き延びてやるし、世界の終わりだって見届けて生き続けてやるって決めている。だから、一人きりだって生きていけるし苦しいわけじゃない。だけど。
 だけど、それって最強につまらないに決まってる。
 気づいた時から俺は一人だった。食わなくても生きてけるから別に困ることはなかったけど、一人きりはつまらなかった。途中からジクロが来るようになったから美味いもの食えるし、説教は面倒だけど暇つぶしにはなる。ジクロが来てから、俺はほんの少し楽しくなった。誰もいない屋敷にいるのが嫌だって思う時間が、少しだけ減った。
 だけど、やっぱりジクロは違うんだ。俺は、俺の考えた悪戯を一緒にやってくれるやつが欲しいけど、ジクロに言ったら怒られるだけだ。庭の木の天辺まで一緒に登ってすげーよなって言いたいけど、ジクロはきっとすごいですねって笑うだけだ。ジクロは俺を褒めてくれる。俺をすごいと言って、いい子だと言って、何かすごい宝物みたいに扱う。それが嫌だってわけじゃないけど、だけど、やっぱり違うんだって思う。
 きっとジクロは俺と喧嘩しないし、殴り合いもしないし、嫌いなものこっそり押し付けないし、一緒に冒険行かないし、秘密基地だって作らない。俺が欲しいのは、本気で喧嘩して勝ち誇れるヤツ。嫌いなもん押し付けたら言い返してくるヤツ。(で、それを叩き潰す)一緒に冒険行ってどろどろになって笑えるヤツ。秘密基地作って、やった! って言い合える、そういうヤツなのに。
 俺の世界は、あくびが出るくらい楽で容易い。刺激なんてほとんどなくて、色んなことが簡単に進んで行く。欲しいって言ったら大体次の日には揃ってて、それが当たり前の世界。毎日監視されて観察されてるのは窮屈で退屈で、全員ぶちのめして出てってやろうかとは一日十回以上は思う。でもそれをやらないのは、どこに行ったって俺の望んだヤツはいないんじゃないかって思ってるから。
 一人だって生きていけるんだ。本当に俺は、誰もいない世界で生きていけるんだ。だから誰も必要じゃないのに、いなくたっていいのに、だけどいたらいいなぁって思ってる。あくびが出るくらい簡単なこの世界で、たった一人で生きていくのは退屈すぎるから。
 暇つぶしでいいんだ。俺の隣で、一緒に本気で笑えるヤツっていねーのかなぁ?