Note No.6

小説置場

君の知らない、僕のこと。

 分解したパーツを一つずつ掃除して、組み立てなおす。シリンダーは特に入念にチェックして、埃が入らないよう元の状態へ戻した。ジクロから譲り受けたH&Tは年代ものだから、定期的な手入れが必要だ。
「はー…訳わからん」
 椅子の背に顎を乗せてこちらを見ていたライが、シリンダーの滑りを確認している僕に向かってつぶやく。
「何それ。順番とか覚えてんの? 化け物?」
「銃持ってる人ならこれくらい普通」
 別に僕が特別というわけじゃない。分解して組み立て直すなんて、銃を扱う人間なら全員出来て当たり前だと思う。まあ、それがままならない人間がいることは重々承知している。暴発事故に繋がるだろうけど、僕が言い立てる義理はない。
「ライも銃欲しい?」
 答えはわかっているけど聞いてみた。ライは顔をしかめて「今の流れで言うか」とつぶやいてから、肩をすくめた。
ジョーダン。そんなもん必要ねーし」
「まあねぇ。君、銃弾とか避けられるし、銃よりヤバイもんね。存在自体」
「まあな! 褒めても何も出ねーけど!」
「うん。全然褒めてない」
 全てを都合よく解釈出来る思考回路は、今日も健在のようだ。僕は溜め息を吐いてから、机の引き出しから銃弾を取り出す。粗悪品も出回っているので、入念にチェックしておかないといざという時に使えなかったりするのだ。
 H&Tはシリンダーが深いので、わりと色々な銃弾が使えるのは有難い。やはり一つの種類に限ってしまうのは、需要と供給において危険だし。偏りなく満遍なく、様々な種類を使える方がいい。
 そういうわけで並んだ銃弾の数はかなりのものだ。こっちを見ているライは「それ全部やんの? マジで?」という顔をしている。僕は一つずつをチェックしながら言葉を飛ばす。
「別に君に手伝ってもらわないから安心していいよ」
「たりめーだ。ぜってえそんなもんやらねーよ」
 そんなもんコマコマコマ…見てるだけでいらいらする、と吐き出される。こういう細かい仕事が大嫌いだということはよく知っている。そもそも細かいこと考えるのも嫌いだし、本能と大雑把な感情で生きてるのだから、全てが大味で出来てるような存在だし。
「つーか、銃ってマジ面倒だよなー」
 しみじみ吐き出されるので、「まあね」と答えておく。自分自身の身の内に、何より強大な武器を抱えているライからすればその感想も最もだろう。途切れることもなく永遠に攻撃可能、補給物資も必要なく、際限なく痛めつけ命を潰し全てを消滅させることの出来る、強力な武器。生まれた時から持っている、血に刻まれた何よりも大きな畏怖すべき力。
「しかも、俺より弱いし」
 あっけらかんと言い放つ。確かに、真正面から銃と対峙したらライが圧勝するだろう。多少の出血(人間で言うなら致命傷の量)でも、傷は塞げるし、下手すると飛んで来た銃弾を絡め取ることも可能。さらに、銃弾を上回る速度で急所の狙い撃ちも出来る。そりゃ化け物呼ばわりされるよなぁ、という能力の持ち主なのだ。
「…まあ、でも。僕に害を為したら僕が殺してあげるからね」
 安心していいよ、と告げると鼻で笑った。俺がお前に殺されるわけねーじゃん、と微塵も疑っていないので、顔を上げてライを見た。
「そこがライの甘い所だよね。誰も馬鹿正直に真正面から突っ込んでくなんて言ってないでしょ。策略めぐらせて、じわじわ追い込んで、いたぶってあげる」
 にっこり、極上の笑みを浮かべて言ってあげた。長い付き合いだ、行動パターンは熟知しているし、何よりも頭脳作戦に弱いことなど充分すぎるほど知っている。要するに馬鹿だから。ライは案の定言葉に詰まり、何やらくぐもった声を出す。ぶつくさ落とされる言葉は「由月マジ容赦ねーんだもん…」などと、腑抜けたことを言っていた。
「何言ってるの? 容赦なんてするわけないでしょ。全力を持って君を殺してあげる」
 だからね、と続ける。君を殺すのは僕だよ。この世界で、僕以外に殺されるなんてヘマしないでね、君のことは僕がきちんと仕留めてあげるから。きっぱり言い放つと、ライは肩をすくめた。
「そんなすぐやられるわけねーだろ。お前にだって勝つわ!」
「どうかなー。ジクロにもらったこれで、きっちり撃ち抜いてあげるよ?」
 装弾数6発の、使いこまれた銃を示す。ライは少しだけ複雑な表情を流して、僕の隣にあるH&Tを見つめた。きっと思い出しているんだろう。ジクロと過ごした日々を、帰らない日々を、何よりも楽しくて仕方なかった毎日を。僕は気づかないフリをして、言葉を乗せた。
「6発もあれば充分でしょ」
「は、どーだか」
「そっちこそ。僕の楽しみを奪わないように、精々長生きしてねー」
 ひらひら手を振りながら言ってやると、当然だ! と鼻息荒く答えた。まったく単純だ。まあ、本気で誰にも殺されるつもりなんてないだろうし、僕が本気で殺そうとしたら本気で僕のことを返り討ちにするだろうけど。
 ライには見えない位置で、一つ息を吐いた。単純なライはきっと気づいていないだろう。僕は何一つ、嘘なんて言っていないけど、それでも言っていないことはいくつかある。絶対に言わないし、何一つ残すつもりなんてない言葉。
 ライの命を奪うのは僕だと決めている。だからそのためにも、僕はライを守りぬく。僕以外の人間に殺されないよう、いつか終わりを選んだ時にきちんと最期を渡してやるために、僕はライの命を守るだろう。
 はっきりではないけれど、ライはそれに気づいているかもしれない。だけど、ねえ、ライ。君は一つ、絶対に知らないことがあるんだよ。もしも僕が本気で君に挑んだら、きっと僕は勝てないだろう。いくら策略を巡らしても、いくら罠にはめようと、僕は君に勝てない。
 だって僕は僕の命を守ると決めているけど、だから君を殺そうとするけど、だけど、ねえ。僕が勝てる世界よりも、君が勝った世界の方が、僕はきっと好きなんだ。