Note No.6

小説置場

クラス委員のひとりごと

 クラス委員の集まりに行ったら、前の席にタカが座っていた。隣の組のクラス委員が座るはずの席だったから、納得した。そうか、二組はタカがクラス委員なわけだ。
「タカ」
 背中をつついてから席に座ると、振り向いたタカが俺を認めて笑った。まだ全員の集まっていない教室は話し声に満ちていて、雑談しても問題はなさそうだ。タカの隣も、俺の隣も空いたままだし。
「ユキもクラス委員か」
「そう。タカはいい加減、クラス委員辞めるって言ってなかったっけ?」
 にやにや、笑顔を浮かべながら言うと眉を下げて笑った。気づいたら結局ここだよ、という顔だ。恐らく、他のクラスにもそういう人間はちらほらいる。小学校の時から代表委員で顔をあわせていたのが数人。後はやる気に満ちた新規メンバーかもしれない。
「まあ、正直タカはクラス委員向いてると思う」
 今までの小学生時代を思い返してみると、切実にそう思う。きちんと意見を引き出して回していけるクラス委員、というのは小学生にして中々のスキルだろう。タカはおかしそうに「ユキだって」と言葉をつなぐ。
「ユキだって常連じゃん。クラス委員」
「まあ俺はなー。向いてるっていうか、担任的に楽だからじゃない?」
 実際の能力というより、とりあえずこの子がやってくれれば問題は起きないだろう、という人選だろうと思う。いわゆる安全牌であって適材適所ではない。タカは「またまた」と笑った。「そんな謙遜しないで」という顔は冗談に似ているけれど、わずかに違う色が混じっている気がしないでもない。
「二組のクラス委員、男子誰?」
「…二ノ宮くん」
 話題をそらすべく話をふったら、一瞬間があったけど返答がある。たぶん同じ小学校から来ているあの二ノ宮だろうと判断した。ふむ、やや押しは弱いけど、その辺りはタカがカバー出来るだろうし、いい組み合わせだと思う。
「そっちは?」
「和島さん。小学校違うからよくわからんのだけど」
 正直に告げたら、タカは数秒考え込む。だけど、それからぱっと笑みをのぼらせると、力強い声を発した。
「体育同じだからわかるよ。…それ、絶対ユキ狙いだ」
「まさか」
 思いがけない発言に、どう返していいかわからなかった。とりあえずそれだけ言うけど、タカはなにやらうなずいている。
「そっかー。積極的だな和島さん。体育の時、『中西さん、原瀬くんと幼馴染なんだよね?』ってすっごい聞いてきたもんなー」
 しみじみとした顔で言うので、俺はどう返したらいいかわからない。こういう時、どう反応すれば一番自然なんだろう。マジで困る、と思うけど相手がタカなのが救いだった。俺が困っている気配はすぐわかるし、いつものことだから慣れっこだし。
「まあ、狙いっていってもそんなにガッツリしたのじゃないと思うよ。原瀬くんっていいよね、一緒の委員になったらもっと何かわかるかも、くらいの」
 昔からクラス委員やってたタイプっぽいし、ついでだよ、と続けられる。少し聞いただけだとけなされているようにも思えるけど、俺にはちゃんと効果があるから問題ない。
「そうか。うん、そうだよな。入学してからそんな経ってないしな」
 自分自身に言い聞かせるように続けると、タカも「うん」とうなずいた。だけど、相槌を打つのとまったく変わらないテンポで「でもさ」と口を開く。
「実際問題、ユキってわりと高スペックなんだよ。違うって言うけどさ」
 否定しかけた言葉を遮り、タカは言う。淡々と、それはどこか別の幼馴染を思い起こさせる。
「運動出来るのはスポーツテストの結果でわかるし。勉強だって何指されても答えられるでしょ? 性格ならクラスにいればわかるじゃん。ユキは普通なんだろうけど、女の子にやさしいし。顔だって、断言してもいいけど入学式の日『あの人格好いいね』って言われてるよ」
 それはともすれば褒め称える言葉で、人によっては嬉しいのかもしれないし、有頂天になるのかもしれない。だけど、俺がそうじゃないことをタカは知っていた。
「ああ、別にユキに対してそういう期待をしてるってわけじゃなくて。ただ、そういう風に見えてるっていうだけの話なんだよ」
 だから、多少ユキ狙いでも仕方ないって、と言われた。慰めている風情なのは勘違いでも何でもなく、その通りなのだろう。
「…あー…まあ、そうか」
 たぶん贅沢な悩みなんだろうと思う。勉強は努力すればするだけ出来た。体を動かすことは嫌いじゃない。我が家は女性の力が強いから、女性にやさしくするのは身体に染み付いたルールだ。顔はまあ生まれつきの問題だけど、確かに悪くないし。だからそんなことが悩みの種になるなんて、きっと理解されない。
「でも別に、永遠にそうであり続けろって話じゃないからね」
 ほんのりと笑みを浮かべて、ぽんぽん、と肩を叩いた。俺はサンキュ、とタカに言う。
 答えられない問題がないように準備をしていたら、何を指されても怖くなかった。体を動かしたらもやもやが晴れた。身だしなみを整えれば、町中に自分の居場所を構築出来た。それだけの理由で、賞賛されたり讃えられたりするものじゃないって知っている。周りはそう見てくれないけど、単に小心者なだけなのだ。上手に立ち回っているからわからないだけで。
「帰り、松崎ミート寄るか」
「いいね」
 それでも、俺の本当を知っている人がいてくれるから。きっとまだ、俺は俺を保っていられるんだろうと思う。