Note No.6

小説置場

Image Animals

 最初にその話題を口にしたのは橙子だった。いつものように視聴覚ルームに集まり、思い思いに作業をしている時だ。予習をしていた手を止めると、ふと思い出した、といった調子で言葉を落とした。
「……みんなを動物にたとえると?」
 橙子の言葉を繰り返したのは、向かい合わせでノートにペンを走らせていた若菜だ。ぱちくり、とつぶらな瞳をまたかせて目前の人物を見つめる。橙子はにこやかにうなずいた。
「そうそう。たまに考えたことあるんだけど、なかなか全員決まらなくて。若菜ちゃんの意見も聞きたいなって思って」
 言われて、若菜は首をかしげた。メンバーそれぞれを動物にたとえると、一体どんなものになるのか……? 唐突な問いかけに考え込みかけるが、思考に沈む前に橙子が口を開く。たまに考えていた、というだけあってある程度のイメージは固まっているのだろう。
「個人的にまず――白夜くんは犬!」
 告げられた名前と動物に、若菜は思わず「それはわかる気がする……」とうなずいた。橙子は嬉しそうに「犬っぽいよね、白夜くん」と言っている。
 その言葉に若菜は、白夜の姿を思い浮かべる。友人が多く、知った顔を見つけると嬉しそうに一目散に駆けていく。黒目をいつもきらきらさせて、楽しいことを見つけるのが上手な人間だ。嬉しいことに一直線、何でも楽しんでしまう人懐こい姿は、どこか犬を連想させる。
「楓先輩は……猫系かな……?」
 白夜の動物が決定した所で一つ上の先輩について思いを馳せると、ひとまず猫系の動物であろうと思われた。こぼれ落ちた若菜のつぶやきに、橙子が大きくうなずく。
「ああ、うん。楓先輩は猫系だよねぇ。ただ、飼い猫って感じはしないけど」
 苦笑に似たものを浮かべる橙子に、若菜も控えめに笑って同意を告げる。楓が誰かに飼われる姿が想像出来ないのは、二人とも同じだった。人当りは悪くないのだけれど、揺るぎなく自分の芯を持っている。決して他者の手中に収まる人間ではないと、二人とも知っていた。
「結構大きい猫系の……でも、ライオンとか虎って感じじゃないよね」
 的確な言葉を探し出そうと、橙子が言葉を紡ぐ。細身で背が高く、しなやかさを持つ楓はあまりがっしりとした動物のイメージがない。若菜も頭に浮かぶ言葉を口に出す。
「うん、もっとこう……すらっとしてて俊敏っていうか」
「あ、そうそう。そんな感じー」
「……豹?」
 橙子の言葉から連想が働き、思いついた動物。いまいち確信が持てず、首をかしげてつぶやいた若菜だけれど。橙子が勢いよく手を打ち、それだ! と叫ぶ。いたく納得しているらしく、若菜も何だか誇らしい気持ちになった。
「ええと、真琴ちゃんは……優雅な感じだよねぇ……。……白鳥とかかな?」
 話題は次の人物である真琴へ移ったのだが、すぐにイメージが結びつく。橙子の言葉に若菜も同意し、二人はうなずきあった。たおやかでいつでも優雅、とても同い年とは思えないあの気品といい、白鳥の持つイメージに真琴はふさわしいだろう。
 そのままの流れで先生は、と橙子は続けるが、何も思い浮かばない。しばらくあれこれと動物名を口に出していたものの、結局何もぴったり来るものはなかった。仕方ない、とひとまず後に回した。
「若菜ちゃんはリスだよねー」
「……橙子ちゃんはウサギだと思う」
 今度の対象は自分たちだったので、二人は互いの印象を述べてみる。ただ、双方とも「そんな風に見えてるんだなぁ」という感想を抱く程度で、取り立てて反論する要素もなかったので、印象がそのまま決定となる。
「……黄先輩は……」
 その名前を口に出す橙子は困り顔で笑い、若菜も曖昧な笑みを浮かべた。ものすごくマッチする動物が思い浮かんではいるのだ。恐らく、目の前の人間も同じ動物を浮かべているであろうことは確実だった。
「……蛇、だよね……」
 つぶやかれた言葉に、若菜が思いっきり首を縦に振った。身長は高いけれど細身であるために細長く見える所、常に淡々としていて温度を感じさせない点、底の知れなさを物語る雰囲気、実際色々と謎の多いミステリアスな部分など、蛇の持つイメージと黄はよく合致していた。
「青葉は……うーん、何だろう。哺乳類じゃない気はするんだけどなぁ」
 続いたのは橙子の従兄弟である青葉だ。首を傾げながらつぶやかれた橙子の言葉に、若菜もうなずく。青葉はどこか違う次元で物事を考えていそうな節があり、哺乳類というくくりには入らないような気がしたのだ。ただ、結局何も思い浮かばず、青葉も後回しになる。
「紫信先輩は……」
「猫?」
「あ、確かに。あの気まぐれな感じはそうだよねー」
 一つ年上の先輩は、愛想も良く女の子にはやさしい人ではある。ただ、彼の本質はとても気まぐれなのだということを、二人はよく知っていた。自分の気の向くまま、好きなように行動しているのが常だった。もっとも、それでいて人の近くで生きていることを選んでいるような節があるので、そういう点でも猫がぴったりだと言えた。
 納得した二人は、次に亮人へ移る。さて一体何の動物がイメージに合うか、と考える二人だが、亮人の顔を思い浮かべればすぐに答えが導き出される。
「狐だね」
 橙子の言葉に若菜も大きくうなずく通り。細面に、きりりと上がった目じり、全体的にシャープな印象を与える亮人を狐にたとえるのは、誰もが納得する選択だろう。もっとも亮人は、狐と言ってイメージされるような狡賢さとは、無縁の人間なのだけれど。
「金田先輩は……何だろう……」
 次の人物として話題に上がるのは、一つ年上の先輩である、金田穂積だ。ハキハキとしていて正義感が強く、凛とした雰囲気を持っている。二人はぶつぶつと言い合うが、やはり思いつかない。イメージするものの周りをうろついている気はするのだが、どうもぴったりのものを言い当てられない。二人は穂積も後に回すことにした。
「えーと、最後に銀河くん」
「豚」
 若菜が即答した。あまりにも淀みのない言葉に橙子は苦笑いするしかない。もっとも、小太り体型の銀河から想像される動物が豚であることも確かなので「まあそうだよねぇ」とうなずいた。
「それじゃ最初に戻って、先生だねぇ。先生を動物にたとえると、何だろう?」
「モグラ」
 突然、二人の会話に言葉が飛び込んできた。見れば、HRを終えたらしい青葉が視聴覚室にやって来ていた。橙子が買い出ししてきたスナック菓子を口に放り込みながら、二人の会話に参加する。
「成海先生だろ。動物に例えたらモグラだと思う。あの、他のことをまったく気にしないあたりが地面に潜ってそうだから」
 青葉の言葉に、二人はあー、とうなずいた。確かに、言われてみるとそんな気がしてくる。中々居場所を見つけられない点だとか、存在は知っているけれど実物を見たことがない点だとか、確かにモグラにはぴったりかもしれない。
 青葉は青葉で大体の話の内容を理解したので、「とりあえず黄先輩が蛇なのはわかるけど。他のメンバーは?」と尋ねる。橙子と若菜が今までの結論を伝えると、盛大に吹き出して笑い始めた。それぞれにあてがわれた動物がけっこうドンピシャだったらしい。すると、そこへやはりHRを終えた白夜が合流した。笑う青葉に気づき、なになに、どうしたのー? と会話に加わるので、青葉が手短に説明してやる。すると白夜は、目をきらきらさせて朗らかに笑いながら言う。
「あ、俺黄先輩はわかるよ。蛇でしょ、蛇」
 考えることは誰でも同じらしい、と三人が一斉に吹き出した。え、何? と尋ねられるので、青葉が笑いすぎて浮かんだ涙を拭いつつ、「全員同じこと言ってる」と伝える。白夜は面白そうに破顔した。
「――で、残ってるの誰なの?」
 一通り笑ってから、白夜が興味津々といった調子で尋ねる。まだ自分も面白い遊びに加わる余地がある、ということが嬉しいらしい。
「えーとね、青葉と穂積先輩」
 橙子が返した言葉に、白夜も腕を組んでうなった。青葉青葉……と呪文のように唱え続けていたが、しばらくしてぱっと顔を輝かせる。
「わかった! 青葉はあれ、あれだ。亀!」
 何か甲羅の中に引っ込んでひたすら水に浮いてそーでしょ! と続ける。青葉は亀ぇ? と言うが、橙子と若菜は納得顔だった。
「確かに。青葉は哺乳類っぽくないとは思ってたんだ」
「似合う気がする……」
 二人の言葉に気を良くした白夜が満面の笑みで「うん、オッケー!」とうなずく。続いて「じゃあ残るは穂積先輩だけど……」と言葉をつなげるものの、その時すでに一つのイメージがしっかりと頭の中に出来上がっていた。
「……鶴だろ」
 亀という言葉に必然的に連想された、もう一つの動物。青葉が口にしたその動物は、何だかとても穂積にぴったりだった。
「真っ直ぐしてる所とか、雪国に飛来する所とか白黒ついてる所とか」
 青葉が並べる言葉に、穂積の姿が重なり合う。確かに穂積は冬の凛々しさがよく似合うし、黒と白のカラーリングも何事も黒白をつけないと気が済まない性格と合致している。他の三人は、青葉の言葉に深く深くうなずいた。

 

白夜―犬
楓―豹
真琴―白鳥
成海―モグラ
若菜―リス
橙子―ウサギ
黄―蛇
青葉―亀
紫信―猫
亮人―狐
穂積―鶴
銀河―豚