読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

Note No.6

小説置場

Test out!


「…というわけなんで、どっちかにお願いしたいんですけど」
 今日も今日とて視聴覚ルームへ遊びに来ていた紫信は、突然青葉に「ちょっといいですか」と声をかけられた。何だ、と思ってついて行ってみたら準備室だった。そこにはすでに楓がいて、よ、と手をあげて挨拶をされたので挨拶を返した。
 準備室で青葉を前にしているのは紫信と楓だけ。他の面子は視聴覚ルームでばらばらに作業をしたり話をしたりしている。紫信としては、ここに来る大半の原因である真琴や橙子に近づきたいので、さっさと終わらせてもらいたかった。物腰もやわらかで、受け答えに棘がないにもかかわらずガードのかたい真琴に、こうも接近出来る機会はそうそうない。橙子は取り立てて目立つわけではなかったが、正に「女の子」という感じで、非常に好ましい。別に男どもが嫌いというわけではないけれど、女の子たちと話している方が楽しいし、人生において、むさい男より女のひとと親交を深める時間が多い方がいい、と思っている。ので、紫信は真面目に聞いてはいなかったのだけれど。
 青葉の「オネガイ」を聞くとはなしに聞いていたものの、段々のっぴきならなくなってきたことを理解した。
「…待った、ちょっと、青葉」
 まず言葉を発したのは楓で、青葉に意見している。「何でソレあたしらに言うわけ」と。
「そーそー。青葉、何か間違った期待してね?」
「仕方ないじゃないですか」
 青葉は言われることを理解していたらしく、二人の言葉を当たり前のものとして受け取る。おそらく、二人の反論などとっくに考慮した上での「おねがい」であったのだろう。青葉とはそういう人間だ。
「金田先輩の条件がそれなんですよ」
 現在、青葉たちが進めているのは校内のイントラネットで展開されているゲームの攻略だ。どうしてそこまで攻略をしたがっているのかはいまいちわからないが、何でもそこに存在する「特別ステージ」に入れるのは生徒内でも特殊な人間だけらしい。それを集めるため、この人は、と思う生徒に話を持ちかけていることは、楓も紫信もよく知っている。何せ二人ともそれに誘われてここにいるのだ。もっとも、当初は「面倒くさい」と言って取り合ってはいなかった。楓はどういう風の吹きまわしか、ゲームを行って特別ステージに入れることを証明したが、紫信はまだ「面倒だ」と逃げ続けている。そうは言っても、女の子たちとオチカヅキになるためちょくちょく顔を出しているので、ほとんどメンバーとして扱われているが。
「やってみるだけでいいから、ログインだけでもしてくれないかって頼んでたんですけど。度が過ぎたのか、怒られました」
 一応謝ったりなだめたりすかしてみたりしたのだが、しつこい! と切れた件の人物とは平行線状態のままだったらしい。却って、いくら言っても青葉たちは諦めないであろうことを理解してしまったらしい。そういうわけで。
「協力をするか、二度と近づかないか、を賭けた勝負をすることになってしまいました」
 これに負けない限り、意地でも協力してくれないことは明らかだったので、青葉たちは条件を飲むしかなかった。勝負の内容も相手が決めるらしいのだが、十中八九頭脳線になることは間違いないだろうという見解だ。よくてクイズかパズルだろう。それを聞かされたのが、楓と紫信だというのだからたまらない。
「青葉がやればいいじゃん。そういうの得意だろ」
「そーそ。真琴とか亮人だって出来るでしょ」
 何で俺らが、という態度があからさまだった。青葉は内心でため息を吐く。ソレが出来るなら、どちらかといえば体力で勝負! タイプのこの二人に話などしていない。
「…金田先輩が、対等な勝負にしたいから後輩は駄目だって言うんですよ」
「……」
「……」
 紫信と楓は黙った。それから、二人で顔を見合わせる。
「…あんた、金田って人知ってる?」
「あー…なんとなく…? 眼鏡かけてる?」
「かけてますね」
「じゃあわかった。髪上げてる子だよね」
 人となりを理解した紫信は、ああ、と呻いた。なるほど、彼女だったらそういう申し出をしてきそうだ。しかも、一度言ったら絶対撤回しなさそうだった。それがわかるので顔をしかめた紫信を、楓がつつく。一人で納得するな、ということだろう。
「何、一体どんな人間よ」
「あー…ほら、楓も知ってると思うよ。結構頭いいし。でも、アレで有名かな。理屈屋でマシンガントークの子…って言えばわかる?」
 紫信の言葉に、楓は視線を宙にさまよわせた。記憶を漁っているらしい。眼鏡かけてて髪アップで、理屈屋でマシンガントーク、というキーワードを並べ立てて、数十秒。
「あ! 何となくわかった!」
 ぱっと視線を紫信に戻し、青葉に向けた。同時に、意志の強そうな頑固そうな彼女の顔に、納得してしまった。きつい物言いで正しいことをズバズバと言い、廊下で言い争いをしている場面を見たことが数回ある。クラスメイトの女子たちが敬遠していたのも知っている。なるほど、これは手ごわい相手だ。
「…だから、あたしらなの?」
「まあ、俺先輩の知り合いってほとんどいないし」
「にしても、俺か楓って究極の選択すぎるでしょ。他に――あ、ほら、黄がいるじゃん!」
 紫信が叫ぶと、楓も手を打った。あの理屈と機関銃のようによどみのない口調に対抗出来るとしたら、黄くらいしかいない。それ所か黄こそがふさわしい相手と言っていい。しかし、青葉はあっさり答えた。
「橙子に頼んでもらったけど、『何か気が乗らない』って断られましたよ」
 青葉が真っ先に頼んでいないわけがなかった。しかも、唯一にして最大の切り札である従兄弟を使って。黄は基本的に他人の言うことに耳を貸さないが、どういうわけか橙子の言葉だけは耳に入れてくれる。しかし、その橙子が頼んでも駄目だったのだと言う。他の人間が頼んでも無駄であることはすぐに理解した。
「なので、二人のどっちかにお願いしたいんですけど」
 どっちがいいですか? と問いかけられて。二人はものすごい速さで口火を切った。
「頭脳戦とかまず無理! 俺数学で5点取ったことあるし!」
「甘い! あたし古典で二期連続10点以下だった!」
 あれはさすがにまずかったと楓が笑えば、俺なんて単語テスト点数取ったことないぜ! と紫信が言い、補習五回で先生に泣きつかれたあたしには負けるね! と楓が吠える。大声でいかに自分の頭が悪いかを力説する二人の先輩に、青葉は大きくため息を吐いた。
「楓先輩、紫信先輩」
 やんわり呼びかけると、二人は声をそろえて「自分の方が頭悪いよ!?」と叫ぶ。あまりに力強く言い切る二人に、青葉は心からの言葉を述べる。
「すいません。俺が悪かったんで、そろそろプライド取り戻してください」