Note No.6

小説置場

Colors Talk

 その日白夜が視聴覚ルームへ向かうと、珍しい組み合わせが喋っていた。気になったので、荷物を適当に放り投げた白夜はためらいもせず話に加わる。
「何してんの? てか、珍しいね」
 声をかけられた二人は、白夜が入ってきたことにまったく気づいていなかったらしい。いつの間に、という顔をしている。
「茶木ちゃんと銀河が一緒って」
 正確に言えば一緒に話しているのが、だ。二人とも積極的に他人を排除するような人間ではないから、同じ部屋にいることはほとんどだ。ただ、お互い没交渉であることが大半なので、会話している二人を奇異に思ったのである。
「なになにー? 何の話してんのっ!」
 裏も他意もなく、純粋な興味からの質問であることは、二人も否応なく知っていた。目の前の人間が腹芸など出来る人物ではないことは、重々承知している。単に疑問に思っただけだろう。二人は無言で、不本意ながら視線で会話をして結論を出す。
「…コレの話」
 銀河が指したのは、二人の目の前にあるモニターだった。白夜ものぞきこむ。
「……ナニ? コレ」
 モニターに映し出されているのは、何かしらの一場面のようだった。全身タイツのようなものに身を包んだ人間が、何かのポーズを決めている。全身タイツほどぴったりはしていないけれど、顔は見えないし全身だし、有体に言ってあやしい。というか意味がわからない。五人とも同じ形の服を着ていて、唯一違っているのは色だけだ。全員黒いベルト(のようなもの)をしていて、そこから下は白だけれど、上半身は色が違う。真ん中が赤、その隣が緑と青、一番端は黄色とピンク。
「えーと、何か新しいゲーム?」
 銀河が無類のゲーマーなのでそう聞いてみたが、あっさりと「違うし」と言われた。じゃあ一体コレは何なんだろう。
「やっぱり大柳は知らないのか。特撮ヒーローって知らない?」
「えー…よくわかんない…」
 眉を下げて申し訳なさそうに言うので、若菜が話に加わる。そこまで駄目だと思わなくていい話なのだから。
「あのね、何ていうか…正義の味方の話なんだよ。地球を狙う悪の組織があって、それと戦う正義のヒーローの活躍を描く話」
「日曜の朝とかにやってみたいだね。一部ではうちの世代でも見てたらしいよ」
 とは言っても、銀河も若菜もリアルに見たことがあるわけではないのだ。知らなくても無理はない。大体、こういうものを見る時代には白夜なんて日本にいなかったであろう。
「正義の味方かー…こんな弱そうなのに?」
「…そこは、えーと。何か特殊な素材とか…」
「ていうか、悪の組織って? 二酸化炭素とか窒素とかメタンとか出すの?」
 リアルに地球の敵の話だった。その論法だと、確実に人間が地球の敵だしあながち間違ってもいないのだけれど、二人が話していたのはそこではない。突っ込む所なんて腐るほどあるが、それさえも楽しむのが正しい鑑賞法だと二人は信じているし。
「そうじゃなくてさ。こういうのって、何作も作られてるんだけど、みんな色ついてるんだよね」
 銀河がモニター示す。確かに、五人はそれぞれに色が与えられてる。
「で、大体赤はリーダーなわけ。熱血とかが多いけど、まあ後半はそれに限らないみたいだけど、リーダーではあるね」
「それで、青はサブリーダータイプが多いんだよ。冷静でクールっていうのが、多いかな?」
 銀河と若菜は色によって性格設定がなされているのだ、という話をする。何でも、この「特撮ヒーロー」とやらでは踏襲のようにして、色ごとに役割があるらしい。大体においてピンクと黄色は女性枠だし(昔は黄色も男性で、肥満でちょっと抜けているキャラだったとか)、緑は目立たないことが定説だったので後年ではキャラ付けをするようになったとか、他にも黒がいることもあって黒だとちょっと不良系だとか。限りなくどうでもいい話ではあったが、知らない話だったので白夜は丁寧に二人の話を聞いていた。
「…それで、それを当てはめてみたらどうなるかって、話をしてたんだ」
 若菜が言って、白夜はぽん、と手を打った。先ほどから話がどこへ転がっていくのか全くわからなかった。ものすごく離れていってしまった感があったけれど、やっと戻ってきた気がする。
「なるほど! オレたちぴったりだもんね!」
 面白そうだ、と満面の笑みで答えた。しかし、二人は浮かない顔だ。
「ぴったりっていうか、限りなく残念な結果にはなるね」
「そう? えーと、最初は赤だっけ。熱血リーダータイプ、情熱の赤! …って赤成海先生じゃん」
 数学・情報科の教師の顔を思い浮かべて、銀河の言いたいことを理解した気がした。赤園成海ほど情熱とか熱血とかリーダーとかいう単語から離れている人間はいないのでは、という人物なのだ。彼女がリーダーだったら、悪の組織と戦うという選択肢がまずもって存在しない気がする。
「つーか緑いないし。ピンクって亮人だし、黄色だって黄先輩だし!」
 女性キャラであるはずのピンクと黄色はものの見事に男だった。しかも可愛げがあるわけでもないし、百歩譲って黄色が男だったとした所で、間違っても黄は肥満ではないし、何より抜けているわけがなかった。むしろ誰より狡猾と言っていい。
「…うん、全然当てはまらないねって、言ってたんだ」
「残念だろう」
 二人が口々に言うけれど、白夜は顔をあげた。そうだ、思いついた、というように。
「……でもギリギリ青葉がオッケーじゃん?」
 言われて、倉崎青葉を思い浮かべる。冷静クールのサブリーダー。リーダーというには覇気がないし、冷静クールというよりあれはやる気のなさの表れではないかという気もしたが、しかし。
「うーん…まあ、頭脳キャラではあるか」
「倉崎くん、頭いいもんね」
「でしょ、オッケーじゃない?」
 顔いっぱいに笑みを広げて言うと、「ギリギリね、マジで」と銀河が答える。若菜は「一人くらいいてよかった」と安心していた。
 その後、やって来た青葉に向かって「ブルーだ! ブルー来た!」と言って白夜は騒いでいたけれど、その意味がわかるのは若菜と銀河だけだった。