Note No.6

小説置場

Dream a night!

 長くて急な石段を登り、大きな門構えの神社正面に辿り着く。細かい彫りが施された賽銭箱の横手に、なだらかな石段があることに気づいた。こっちの方が楽だったよなぁ、と思いながら賽銭箱を丹念に見ている竜彦とミーコさんへ視線をやると、竜彦が熱心にミーコさんに話しかけている。私は慌てて二人の傍に走り寄り、傍らで不審そうな目を向けている姉弟から二人を隠した。
「竜彦! ミーコさんに話しかけるのはいいけど、もう少し静かにしてよ」
 私に注意された竜彦は、眉を八の字にしながら謝った。ミーコさんは細い髭を揺らしながら、自分には関係ないというようにあくびをした。
「仕方ないわね。ミーコさんがどんなに努力しても、外見は三毛猫のままだもの」
 お参りを終えた麗奈さんが、長い黒髪を風になびかせながら近付いてくる。そうなのだ。竜彦が熱心に話しかけている「ミーコさん」とは、真っ白い体に黒と薄茶のブチを持った、正真正銘雌の三毛猫なのである。人間の言葉がわかる以外は、いたって普通の我が家の飼い猫だ。
「そうだよ。だから気をつけてよね」
 それだけ言い終えると、私はミーコさんを抱き上げた。すんなり乗ってくるので顎の下を撫でてやると、ごろごろと音を鳴らしながら目を細めている。人間の言葉がわかる以外は本当に普通の猫なので、撫でてもらうのもわりと好きだしキャットフードもおいしいらしい。
 しかし、突然ミーコさんは私の腕の中から飛び出した。石畳につめを立てて、毛を逆立てている。
「ねえ……何か、逃げた方がよさそうだよ」
 ミーコさんを注視しながら、神社の来歴について語っている麗奈さんと竜彦に言葉を投げる。二人はどうしてそんなことを言われているのかわかっていないようだったけれど、説明している暇はない。ミーコさんが、神社の賽銭箱の向こう側‐多分ご神体-に向かって、空気をつんざくような声で威嚇した瞬間、思いきり走り出す。
 本殿の観音扉が開いたかと思うと、渦を巻きながら炎が突進してくる。ミーコさんが先頭を切って走り出し、その後に私、恐るべき反射神経で炎を交わした竜彦と麗奈さんが続く。
 なだらかな石段を疾走し、つんのめりかけながら前へ走る。一段飛ばしで全力疾走、襟首を舐めるように炎が襲いかかる。ゴム鞠のように弾むミーコさんを追いかけている間に、麗奈さんが私を抜いて竜彦が私を抜き去っていく。背後の石畳を焼き尽くして破壊するように、炎は速度をまして突進を続ける。途中で、さっきミーコさんと竜彦を怪しげに見ていた姉弟がいて、「逃げて!」と叫ぶ。だけど突然の事態に反応が遅れたらしい。炎に飲み込まれる二人を目の端に捕えながら、ただひたすら走るしかなかった。息が切れて、心臓の音が全身に鳴り響いて、苦しくて止まりたいけどそれは出来ない相談だ。どうにか下まで降りてくるけど、炎は弱まるところかさらに強さを増している。足がもつれて上手く走れない。敷き詰められた砂利に足を取られて転んだ。スカートからむき出しになった足に炎が降りかかってくるのと、麗奈さんがかけた水で全身がびしょ濡れになったのはほとんど同じだった。