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Note No.6

小説置場

斎主

「紫夜の皇帝」

 父が凶刃に斃れた瞬間、その目に宿ったのは悲しみでも憎しみでもなかった。夜具も畳も襖も真っ赤に染まり、行灯の火でぬらぬらと光っていた。賊は真っ直ぐと刃を向け、「恨むならこの時代を恨め」と、冷淡な声で切り捨てる。
 静貴は昨日まで忠臣であった賊へ向けた視線を、一片たりともそらさない。強い光を宿した目で、ただ賊を見つめている。
「城主の子などに生まれず、平民であればこのように刃を向けられることなどなかったであろうに」
 哀れな、という言葉に静貴は噴出して、けらけらと笑い声をあげる。瞳の光がまたたいて、賊へ輝きを散らす。
「哀れ、だって? お前は何を言ってるんだよ。俺はここでこうして生まれて育ったことを、一つだって後悔してない」
「それなら……この時代に生まれたことを後悔するんだな。だが心配するな。ここでさっさと殺してやろう。生き延びて後悔などせぬように」
 言葉と共に刃を振り上げ、首めがけて振り下ろそうとする。しかしそれはかなわない。頭上高く振り上げられた刀は、そのままの姿勢で停止している。魅入られたように、瞳の光から目が離せない。静貴は、そこに溜まった光と同じ声で言った。憎しみでも後悔でも悲しみでもない。ただ純粋な、決意だった。
「俺は生きるさ。このクソみたいな時代で、死ぬ方が楽かもしれないってこの阿呆な時代で、徹底的に生き抜いてやる」
 俺の死に時をてめえが決めてんじゃねえよ、という言葉は強さしか持ち合わせていなかった。強くしなやかな、決して折れることのない声だった。賊は、石化したように動くことはない。静貴は立ち上がり、もう一度言葉を紡ぐ。
「この時代に生まれたって、声をあげて大笑いして生きるさ」