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Note No.6

小説置場

ひかり、ちる

 しゃわしゃとホースから水を出しながら、周りの草木に水を蒔く。麦わら帽子の下の顔は、この暑さにも関わらずまったく焼けることはない。それどころか、彼の顔や手足、腕だけは降り積もった雪のように白く澄んでいた。
「あ、こんにちはー!」
 しかし、弾けるように浮かんだ笑顔は紛れもなく光り輝いている。溢れるような生命力さえ感じさせる彼の笑顔がまぶしくて、目を細めた。
「こんにちは。中にいるかな?」
「はい。なんかやたら凝ったブーケ作ってるなと思ったから、そろそろ来ると思ってたんですよ」
 麦わら帽子を深くかぶり、首を傾げて笑った。熱など一つも知らないような顔だけれど、真っ黒に輝く瞳の奥にはちらちらと燃える、炎のような意志があるのだと知っていた。
「いつも、難しいくせにいやらしくない注文してくれるから楽しいって、張り切ってましたよ」
 にこにこと笑顔を浮かべて言う様子に、思わず麦わら帽子ごと頭を撫でた。麦の匂いが鼻をくすぐり、きらきらと光が散る。驚いたような顔をしたけれど、すぐに受け入れてしまうのが彼らしい。
「……由貴くんも手伝ったんでしょう?」
 照れるような、困るような、そういう風に眉を下げる。赤く染まった気がして、確かに彼の中に流れている血潮を感じている。由貴は、白い歯をこぼして笑った。周囲に満たされていた光が動いて、由貴のまわりできらきらと散っては輝いている。
「そりゃあ、ここの花を使わなくちゃ最高の出来にはなりませんから」
 熱も熱さも感じさせない笑顔だった。それでも、全ての光が散乱し、反射し、目も眩むほどの輝きに満ちているのだと知っていた。短い命を精一杯生きる彼の、全てを覆い尽くすほどの輝きに目を奪われている。いっそ泣きたい気分になりながら、由貴の笑顔を見ていることしか出来ない。
 どうか、彼の世界が、ずっとこんな風に光散る風景でありますように。叶わない願いだと、知ってはいても思わずにはいられなかった。あなたにとって、世界は光で溢れていますように、と。