Note No.6

小説置場

Baby, I love you

(あいしてくれる?)


 誰かに認められるためのものではなかった。そんなこと、嫌というほど知っているだろうし、充分自覚しているだろう。だって、何より思っているのは君自身だ。君はほとんど確信してしまっている。誰に認められなくても、誰一人見向きもしなくても、君以外の他人には何の価値もないとしても。それでも手放すことなど出来やしないのだと、もう知ってしまった。
 だから君はきっとこれから先もずっと続けていくんだろう。思うことを止めないだろう。そこにどんな意味もなくたって、一つも理由も価値もなくたって、もうずっとこのままだ。ある意味では呪いのように、決して逃れられない鎖のように。
 それは悲しいことかい? 苦しいことかい?
 僕の言葉に、君は首を振った。悲しくないよ。苦しくないよ。考えればそれだけで、心が浮き足立って、わくわくして、落ち込んでいたってそんなことどうでもよくなってしまうんだ。魔法のように私の心を軽くする。
 そう、君は真実心の底から言っている。嘘偽りなく本当に思っているのだ。だからそれはきっと、幸福の類なんだろう。だけどそれなら、どうして君はそんなに苦しそうなんだい?
 尋ねれば君は答えた。そうだね、僕になら何の嘘も吐かなくていい。思うことをそのまま吐き出せばいい。君は言う。だって、きっと私は思ってしまう。いつの日か、耐え切れなくて尋ねてしまう。
 ねえあなたは、わたしをあいしてくれますか。
 いつだって望んでいたことを知っている。どんな時もその心が叫んでいた答えを知っている。君はいつだって尋ねていたんだ。どんな時も呼びかけていたんだ。どうかわたしを愛してくれませんかって。
 君は泣きそうな顔でほほえんでいる。今にも泣き出しそうなくせして、唇には笑みを刻んでいる。泣き方が下手なのは相変わらずで、上手く泣くことも出来やしないでいる。だって泣き方なんて教わらなかったんだものね。耐えることや、無理に笑ってみせることだけは求められてきたから、随分上手になったけど。大声で泣き喚くことや、感情を表へ出すことはいけないことなんだって思ってきたものね。
 ねえ、僕はきっとそんな君を抱きしめてあげられるんだけれど。君はそれを簡単には受け入れられないんだよね。
 君はずっと叫んでいた。声にならない声で、決して届かない声で、何度も呼びかけていた。誰の元にも届かなかったね。誰の耳にも聞こえなかったね。すくい上げてくれる人は、だれもいなかったね。
 エスパーじゃないんだから声を出さなきゃわからないよ、て笑ってた。仕方ないんだって、どうして助けてくれないんだって恨むのはおかしいんだって言い聞かせていた。僕はそんな君を、心から大事したいと思うのだけれど。
 だってちゃんと、周りのことを考えていられるじゃないか。なりふり構わず暴れまわることなんかしなかったじゃないか。それは弱さなのだと君は言うけど、いいやそれは君の強さだ。誇ってもいんだ。胸を張ってもいいんだ。だけどこんな言葉、君は望んじゃいないだろう。
 いつの日にか、と君は言う。いつの日か私は望んだ答えがほしくてたまらなくなるよ。いつかきっと、それを形にしてしまうよ。
 苦しそうに吐き出す言葉。その意味を、僕はよく知っている。そうだね。君にとってはそんなこと、自由自在でしかないだろう。だって僕たちはみんな君に作られた。
 好きなものから嫌いなもの、守りたいものから許せないこと。趣味や性格、どんな風に行動するか、大事な人が誰なのか、どんな境遇で生きてどんな日常を送っているのか。そういうもの全てを作り上げたのは、他ならない君自身だ。
 いつの頃からか当たり前のように始まっていた君の遊び。その数は年を追うごとに膨大になり、いくつもの世界と何人もの人間たちが生み出されていった。君は心から愛してくれたね。大事に思って、嘘偽りなく本当にわくわくして心を動かして、僕らのことを考えてくれた。それは君にとって、日々を過ごす意味だった。死なずにここへ残る理由だった。それだけの価値があったし、永遠に色褪せない宝物だった。
 そうしてつないできた毎日。どうにか生き延びてきた日々。僕たちはその心を誰より近い場所で感じてきた。ねえ、叫びたかったんだよね。大声で周りのことなんか気にしないで泣きたかったんだよね。
 心の底から大声で、すがりつきたかったんだ。愛してほしいって、大事だと思ってほしいって、私に価値はあるのだと思わせてくれって。叫びたくて泣きたくて、ずっと祈っていたんだよね。
 近くにいたから知っているよ。君が作った世界の住人たちは、みんな知っているよ。
 決して疎まれていたわけでもないし、何か決定的な問題があったわけじゃない。一つだって思いつかないけど、君は君自身の価値をどうしても信じられなかった。落第生でもないしむしろ優等生ではあったのに、いつだって自分には価値がないと思ってきた。失敗したらそれだけでもう終わりだと思ってきた。
 少しずつ改善はされてきていたけど、それでもやっぱり思ってしまうんだ。時々ふとした瞬間に、とてつもない疑念に襲われる。価値なんてなくたって、意味なんかなくたって生きていけるなんてこと、ずっと前から知ってるけど。それでも、ねえ。
 絶望的に何の価値もないんだって、思い知ったような瞬間が訪れるんだ。
 その度君は叫んでいる。声にならない声で、誰にも聞こえない声で。大事ですかって、私はあなたの大切な何かになれますかって、一番じゃなくていいから、大切な記憶の片隅にいてもいいですかって。
 僕たちはその問いに、声を大にして答えられる。君自身もわかっている。だって僕たちは君に作られた。君の望む答えを返すなんて簡単だ。だから君はためらっている。
 それは結局自分自身のエゴでしかなくて、勝手な自己満足なんじゃないか? って。僕たちにそんなことを答えさせたって無理にはじき出した答えでしかない。本当ならそんなこと言いやしないのに、私が押し付けてるだけじゃないか! って。
 僕はそんな君のこころを何よりも尊く思う。君に作られた僕の言葉なんて、自分自身を励ましてるだけじゃないかって? その通りだ、だけどそれでいい。ねえだって、無条件に自分自身を肯定出来ない君は、いつだって客観的であろうとしたんだよね。わがままにならないように、誰かを不快にさせないように、そうやって頑張ってきたんだよね。自分の存在を否定されないための手立てだったとしても。臆病ゆえの消極性だったとしても。
 ねえやっぱり僕は思うんだ。君はきっとうなずかないだろうし、心の片隅では疑うと思うんだけど。だけどやっぱり君に言うよ。君に作られた僕たちから、僕を作った君に向けて。
 君の心を僕たちは何よりも愛おしく思うのです。だって君は僕たちを愛してくれたから。実在するわけじゃないし、君の頭の中にしかいない僕たちを、ちゃんと大事にしてくれたから。それなら僕たちだって思ったっていいでしょう?
 自分自身が作った人間からの言葉だって。自分のことさえ上手く好きになれない君には丁度いいと思うんだ。だから、君に言います。


「あなたのことなんか、生まれたときから大切だったよ」