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Note No.6

小説置場

またたく睫毛にきらきら星をあげましょう

(まほうを、おぼえている?)

 いつだって私の魔法使いはお兄ちゃんだった。いじめられたら助けてくれたし、怒られたら一緒に謝ってくれた。お兄ちゃんがいれば何にも怖くなかった。私はいつだって無敵だった。だって私には、魔法使いの味方がいたから。
「お兄ちゃん」
 そっと名前を呼ぶ。ベッドの上で横たわり、ただ規則正しく呼吸を続けているその姿。すっかり憔悴してしまった横顔。
 お兄ちゃんはいつだって、私が笑顔になる方法を知っていた。たぶん、私自身よりも私のことをわかっていた。だから、どうすれば涙を止めて笑顔に出来るかなんて、容易いことだったんだろう。
 私にはそれが魔法みたいに見えていて、思わずそう言ったのだ。お兄ちゃんは私の言葉に、こぼれだすような笑顔を浮かべて答えた。そうだよ。本当は、俺は魔法使いなんだよ。
 だから私を笑顔にするなんて簡単なんだ、と言っていたっけ。今の私にはそれが嘘だということも、私の夢を壊さないようにというお兄ちゃんの配慮だったこともわかる。
「お兄ちゃん」
 お兄ちゃんはいつだって私の味方で、どんなことがあっても私を助けてくれるヒーローで、どんな状況でも私を笑顔にしてくれる魔法使いだった。だからお兄ちゃん、今度は私の番だよね?
 いつだって私を笑顔にしてくれた。お兄ちゃんにかかれば、大泣きして濡れた睫毛に引っかかった雫でさえも、きらきらとした真珠だった。きれいだろうって笑ってくれたから、きれいだねって私も笑った。
 お兄ちゃんが言ってくれれば、涙だって途方もなく綺麗な宝物みたいだった。だから今度は私が言ってあげる。その涙さえも、苦しくて辛くてこぼした涙さえも。全てはみんな、この上もなく美しいんだって、呆れるくらいに言ってあげる。

 

Title:「夜風にまたがるニルバーナ」