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Note No.6

小説置場

back-to-back

長編―登場人物

 先生と日向は似ていると、思う。
 社会科準備室で補習授業を受けている。というのも、この前の定期テストで赤点を取っちゃったから。元々得意じゃなかったけど、高校に入ってからはばっちり苦手に昇格した。あれ、こういう時って昇格でいいのかな。
「ぼけっとすんなー」
 気の抜けるような声で先生が言う。わたしは肩をすくめて、目の前の再試験用紙に取り組んだ。うう、やっぱりわからない。こんなの覚えてないし、いくら考えたって無理の気がするんだけどなぁ…。
 それでも一応頑張って、時間中は考える努力だけはした。全然思い出さなかったけど。一応、考えようとした所だけは評価して欲しいと思う。たぶん無理だけど。
「お前はさ、そもそも覚える気がないよね」
「……えへへ、まあ」
「うん。そこはせめて否定してくれ」
 答え合わせをしている先生の言葉にうなずいたら、突っ込まれた。だから慌てて、「でも考えたんですよ。どうにか出てこないかなって、頭使いました」と訴えてみる。先生は鼻で笑った。
「それは考えるって言わない」
 思い出そうと頑張ったのはわかるけど、考えるっていうのは記憶を引き出すって意味じゃねぇよ、と言われた。同じようなものだと思うけど、違うのかなぁ、と思う。どうやら先生はわたしの疑問に気づいたらしい。
「いいか、思い出そうとするのはつまり、頭の中にあるものを取り出すってことだろ。散らかったタンスから、目的の服を見つけるみたいな」
 こくこく、うなずいた。出かけようとする時に限ってお気に入りのカーディガンが見つからなくて、部屋中を引っくり返したことを思い出す。お母さんに、だからちゃんと片付けなさいって言ったでしょ、と怒られた。
「考えるっていうのは、元々あったものから別のものを作るってことだよ。タンスからこれはって思う服を出して、コーディネートを完成させる」
「先生、コーディネートって言葉、似合わないね」
「感想がそれかよ」
 頑張ったのに、と苦笑いをするから、わかりやすかったよ、と答えた。本当に、嘘じゃなくて。先生って基本的に適当なこと言ってる感じだけど、時々すごくまともなことを言う。そう思ったら、つい言っていた。
「先生って日向と似てる」
「……日向?」
「え、先生自分が副担やってるクラスの生徒名くらい覚えてよ。日向だよ、奥村日向」
 フルネームで答えたら、先生が遠い目をして「奥村か」とつぶやく。一応名字を言えばわかるらしい。
「似てるか?」
 納得出来ない、みたいな顔をして聞かれるから大きくうなずいた。「似てる、絶対似てる。太鼓判押しちゃう」ってこともつけておく。先生はやっぱり首をかしげている。だから、もう少し言葉を足した。
「日向って基本的にまともなこと言うけど、時々すごく適当だし」
 先生は、基本適当でたまにまともだよね。言うと、何だかすごく苦いものでも飲んだような顔をして、「それは正反対って言わないか」とかつぶやく。わたしは首を振った。
「正反対っていうか、背中合わせだよ」
 同じ場所に立ってて、すごく近い位置にいるって感じだと思う。だけど背中合わせになってるから、お互いのことが見えないだけで。
「日向って、すごく面倒見良くていい子なんだけど、中々行動出来ないってタイプなんだよね」
 高校に入ってから仲良くなった日向を思い出して言う。先生も一応否定しないし、そういう所もあるかもな、とぼんやり答える。たぶん、自分とは全然違うけど、とか思っている。
「先生も実は色々気づくけど、中々実行に移さないタイプだよね」
 やる気はあるけどやらない、みたいな。言い切ったら、さっきよりも十倍くらい苦い顔をした。怒るかなってちょっと思ったけど、先生は呻き声をあげてから、つくづく感心した、みたいな顔をしただけだった。
「お前、意外と人のことよく見てんな」
 数十秒黙ってから、そんなことを言う。何だかんだ言ったって、先生はあんまり怒ったりしない。駄目な所は駄目なまま、無理矢理自分を作ったりしないから、生徒に対しても完璧を求めない。だからたぶん、わたしはこんな風に気軽に言えるんだと思う。
「まあねー。だからさ、やっぱり先生と日向って、似てると思うよ」
 細かい所まで目を配って、些細なことにも気づいている。だけど、それが行動に出ないからわかりにくい二人だ。それが何だか、日向は大人しいって思われてて、先生はやる気ないって言われるけど。
「背中合わせだから、お互いのこと見えてないんだよね」
 いつだって背中をくっつけてるから、どこを向いても後ろにいるから。自分の背中を見ることは難しいっていう話なんだと思う。振り向いたって見えないから、ちょっとした努力が必要。
 先生はわたしの話を、中断することなく聞いている。こうやって、無駄話は要らないから、とか遮らない所も似てるかな。日向も、人の愚痴とか何でもない話を、ちゃんと最後まで聞いてくれる。
「……まあ、お前は再試験でもあんまり意味なさそうだから、課題提出な」
 話を聞き終えると、先生がそんなことを言う。そういえばわたしは赤点取ったからここにいるんだっけ。元の話に戻ったから、さっきの話はもう終わりかな、と思ったんだけど。課題の内容を説明されて、プリントをもらって帰る時、名前を呼ばれた。何だろう、と思ったら面白そうな顔をした先生が目に入る。
「社会科は悲惨だけど、国語は結構いけるんじゃないのか」
「現国赤点ぎりぎりだったけど。なんで?」
 わたしそんなに本とか読みそうかなぁ、と思いながら聞いたら、先生がにやりと笑った。授業中、ひっかけ問題を出す時に似ているようで、少し違う気がする。クラスの男子がとっておきの話を持ってきた時とかに、似てるかも。そんなことを思っていたら、先生が言う。
「だってお前、人のことすげえよく見てるもん」