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Note No.6

小説置場

MD

長編―登場人物

 コピー機の説明を終えて戻ってきた泉は、夏暮が手に持っているものに目を止めた。手のひらに収まるほどの、四角い機械らしきもの。コードらしき黒いものがついているようだ。
 レジの中に入ると、尋ねるより先に声をかけられる。店内にお客さんはいないのだし、雑談をしてもOKだと判断したのだろう。
「無事にコピー出来たか?」
「あ、うん。出来たけど……」
 コピーの仕方がわからないんです、と言われたので説明をしに行った。手順を一つずつ確認していったものの、最終的に泉が全てを行うことになったのは、それの方が早いだろうと思えたので問題はなかった。しかし。
「あれ、何」
 用紙をセットして、コピーするべき原稿を受け取ってセットした。紙のサイズはこれでいいかな、とチェックして蓋を閉じようとしたら、紙に書かれていた模様と目が合った。確実に、ばっちりと。
「何で原稿に目とかあるんだよ……」
 いい加減、この店のビックリドッキリ具合には慣れたと思っていたものの、やはり不意打ちは心臓に悪い。あちら(原稿)も目が合ったことにうろたえて、しばらく見つめ合ってしまったが。
「しかもちゃんとコピー出来てるし」
 明らかにこの世の物質ではない癖に、ちゃんと複製機能を果たしていることも泉にとっては謎だ。十中八九、あのコピー機も謎の物質で出来ているのだろう。Ricohとか書いてあったくせに。信じてたのに。
 ぶつくさと考えてみたものの、結局はこの店のおかしさを認識するだけだった。一見するとただのコンビニのように見えるのに。泉は一つ溜め息を吐いて、店内を見渡した。入り口を入ればレジがあって、窓際には雑誌の棚、奥にはお弁当やおにぎりが置かれている。アイスやデザート類もあるし、パンやカップラーメンもそろえている。冬には肉まんやおでんも登場するし、いたって普通のコンビニの様相だ。
 ただし、置かれた品を注意深く見ると少し違っていることがわかる。ヤマザキのランチパック(本物)もどういうわけか存在しているが、ヤマサキのランチパック(火星ムースやら泡チョコチップやら)とかも混じっている。その他、ペガサスさん手作り薔薇のサラダとか、千年杉ラーメン、富士根雪のアイス、寝苦しい夜ジュース、人間通信という名前の雑誌などが存在していた。一部に混じっている人体系(眼球ソース炒め、人差し指漬けおにぎり等)は見なかったことにして、泉は精神の健康を保っている。
 見た目だけは普通なんだけどな、と思いつつ泉は店内を見渡す。普通のものも混じっているし、意外と美味しいものもあるので(泉の最近のお気に入りは千年杉ラーメンだ)、面白いといえば面白いとは思っているのだが。
 店内を一周した視線は、隣にいる夏暮の元へ戻った。制服(某コンビニをモデルにしているものの、無駄にカラフル)を着ている目の前の人間は、至って普通の顔をして働いている。この前、両手で抱えるくらいの目玉を普通に煮ていた時は、さすがにドン引きしたが(聞いたことのない生き物の名前だった。美味しいらしい)、明らかに人間じゃない客にも動じずにいられるのだから、すごいやつなんだよな、たぶん、と泉は思っている。
 どうやら昔から、人間じゃないものと関わってきたみたいだし。たぶんこいつにとってはこういう状況も普通なんだろうなぁ、と思った所で。泉は手元に視線をやり、先ほどの疑問を思い出した。
「なあ、それ何なの?」
「ああ。これお前のじゃないのか?」
 お前のじゃないなら、たぶん忘れ物だな、と告げる。受け取って検分してみるものの、どうにも見覚えがない。自分の持ち物だろうか、と疑う以前に使ったこともない代物だ。
「何だこれ。ウォークマン?」
 黒いコードはどうやらイヤフォンらしいので、音楽か何かを聞くものだろう、と推察出来た。ただ、ウォークマンにしては随分大きいし厚く思える。何だろう、といじくり回していると、側面にあるボタンに触れる。軽い金属音がして、口が開く。やべ、と思うものの、中身が入っていることに気づいた。
「あー……これ、MDじゃん」
 手のひらに収まる、四角いディスク。色のない透明なそれは、どうやらMDらしかった。日常生活で使う機会はないし、あまり見かける代物ではないものの、家にあったような気がするので、どうにか覚えていた。夏暮はあまり変化のない表情で、なるほど、と手を打った。
「MDか。あまり使わないな」
「だよなぁ。MDのウォークマンなんかあるんだ」
 馴染みのないものを、二人はしげしげと眺めている。使っている人はもちろん、売っている所でさえも見たことがない。ある意味では大変レアなのだろう。しかし、一体誰が忘れていったのだろう、という疑問が頭をもたげた。謎の店なので、人外である可能性からちょっと昔からやって来た人間、という可能性もある。時々現代の人間も混じるので、ものすごく物持ちのいい人なのかもしれない。何にせよ、自分たちで対処出来る気がしなかった。
 どうやら夏暮も同じことを思ったらしく、バックヤードに声をかけた。すぐに返事があり、レジの方へ進んでくる。その姿を視界に入れた泉は、いつ見ても派手だなぁ、と思った。
 やって来たのは二人の少年だ。鏡に映したようにそっくりの顔立ちをしているが、決して間違えることはない。白い肌に銀髪という姿は、二人とも変わらない。髪の長さから跳ね方に至るまで、そっくり同じと言っていい。ただ、それぞれ瞳に宿す色が違っていた。
「おお? 面白いもの持ってるな」
 楽しげな笑みを浮かべたのは解だ。澄み切った水底のような、深い青色をした目を細めて、隣にいる片割れへ視線をやる。
「ああ。これは、南風の忘れ物でしょう」
 燃えさかる炎に似た赤い目をした刻が、きっぱりと言った。見ただけで誰のものなのかがわかったらしい。しかし、二人には言葉の意味が理解出来ない。それに気づいた解は、至極面白そうな顔で言う。
「夏が近いだろ。だから、色々準備があるんだよ」
「そろそろ南風の吹く季節ですからね。恐らく、春風からの伝言が入ってますよ」
 こともなげに刻が続き、どうやら彼らが言っているのは実際の「南風」のことらしい、と察する。夏に吹く、あの南風だ。誰かの名前や、そういう生き物ではなく、まさしく南風そのもの。普段の泉なら笑い飛ばす所だが、いかんせん場所が場所なので、そういうこともあるのだろう、と納得する。
「南風も忙しいんだな。常にこういうものを聞いていないといけないとは」
 しみじみした顔の夏暮の言葉に、刻が答える。「引継ぎ事項は膨大ですからね。何せ、世界中を飛び回るんです」
「……でもさ、何でMDなの? 別にスマホでも良くない?」
「南風のやつらは懐古趣味なんだよな」
 消えていくものが好きなんだよ、と解はからからと笑った。泉は納得したような微妙な顔をして、つくづく思う。やっぱり変な客ばっかりだよな、この店。

 

022:MD 文字書きさんに100のお題