Note No.6

小説置場

Milky way

 星の綺麗な夜だった。


 友人宅からの帰り道、煙草が吸いたくなって公園に立ち寄った。子どもたちが遊ぶ公園で煙草というものどうかとは思ったが、昨今歩き煙草への風当たりの強さは尋常ではない。公園に誰も人がいないことを確かめてから、土喜は公園へ入った。
 ブランコに揺られるのも変だし、すべり台をしたいわけではない。かといって何もない公園のど真ん中で煙草を吸うのも心もとないので、結局シーソーにもたれかかるようにしてライターに火をつけることとなった。
 慣れ親しんだ味のする煙を吸い込み、肺いっぱいに浸してから空中へ吐き出す。寒いわけでもないのに白い息が吐き出され、夜闇に溶けていった。頭の中も真っ白にしたままで、煙草をくわえている。ヘビースモーカーというわけではなく、思い出したように吸うくらいだから、土喜が煙草を吸うことを知らない人間は多い。隠れているつもりはなかったけれど、あまりに誰にも気づかれていないのが最近は楽しくなってきてしまった節もある。
 俺って、意外とアソビゴコロあるんじゃねーの。
 口の端に笑みを浮かべながら、他愛もないことを考える。煙草も経済的に厳しいし、これをなくしたらわりと金浮くんだけどなー、でもこれくらいはなぁ、と何度も考えたことのある話が浮かんできてしまったので、頭を振って思考を散らす。煙草が取り立てて好きというわけではなかったけれど、吸ってみたら案外嫌でもなかったし、ちょっとした気分転換には丁度よかったので、ずるずる今まで喫煙を続けている。
 大学に入ってから、好奇心で(もちろん二十歳をすぎてから)手を出した。普段真面目な自分としては、ちょっとした冒険のつもりだったのだけれど、世間から見たら大したことではないだろう。単に流れに乗って手を出して、それが切れることなく続いているだけだ。丁度自分の人生と同じように。特に目的もなく生きてきて、取り立てて強い気持ちもなかった。だから、大学が教育学部だったという理由だけで、そのまま教師への道を歩んでいる。なりたくなかったわけじゃないし、たぶんなりたかったのだろう。勉強も嫌いじゃなかったし、人と話すことも苦痛じゃなかった。どうにか試験に合格して、臨時教員ながらも働いているだけマシってもんだろう。
 それじゃあこれから先、どうなるんだろう。土喜はやはりここ最近、ちらちらと頭をかすめる疑問に蓋をした。現在土喜が勤務する学校は、彼の母校でもある私立高校だ。公立高校と違って異動がほとんどない私立高校で、非常勤といえど採用されている。大体、誰か定年で辞めたら後釜に座れる寸法だというのは、重々承知していた。だからきっと、自分はあの学校でずっと過ごしていくんだろうなぁ、と思った。思ったけれどそれだけで、何かの展望が開けるわけでもない。
 夢や希望がないわけじゃない。やりたいことやしたいことはいろいろあるし、明日はいい日になればいいし、未来は明るくあってほしい。人並みに欲はあって、出来れば働かないで楽してお金が手に入ったらいいなぁとか宝くじ当たりたいなぁとか、そういう願望だってある。あと可愛いお嫁さんと子どもがほしいとか。
 だけれど、願望は山のようにあってもそこに至るまでの情熱や行動が生まれてこないのは確かだった。何だか、もうゴールは見えている気がしている。毎日何となく授業して、生徒と馬鹿話して、たまに保護者とぶつかったりなんかして。それで付き合って彼女と適当に結婚したりなんかするんだろう。
 授業は楽しい。生徒の面倒を見るのも嫌いじゃない。人生の一端に関わるのは、けっこうな醍醐味とスリルがある。だから、教師という選択は間違っていなかったと思う。
「……あまのがわか」
 ふと見上げた空に、星くずをばらまいたような線が見えてつぶやいた。そういえばもうすぐ七夕だっけ、と思いながら、星に願うような言葉が見当たらないな、と思った。