Note No.6

小説置場

虧蝕の華

 真っ赤な華が咲くようだった。

 きゃらきゃらと高い声で笑っているのはイチルだ。目の前の紐を引っ張ると、重い落下音が響く。発信源にしゃがみこんでいたニカは耳を澄ましているけど、思い通りの情報は手に入らなかったらしい。心底残念そうに言葉を吐いた。
「まだ駄目だねぇ。足りないよ」
「じゃあ、コレ使っていい?」
 わくわくしながら俺の手にあるものを見せると、「それはまだだ」と言うサントウの声。振り返ると、静かな目をしたサントウが俺を見ていた。凪いだ視線を手元に注いでから、ゆっくり首を振る。
「シラン、それじゃ、喉が潰れる」
「やっぱりまだか」
 そろそろ試したかったんだけどなー、と言いながら舌を出すと、サントウの口元が緩んだ。たしなめるように、それでいて受容するようなほほえみだった。俺たちのやり取りに気づいたイチルも話に加わる。
「シラちゃんはいっつも気が早いんだからー」
 ふわふわとした春のような笑みを浮かべる。「実験台にするのはいいけど、遊びすぎちゃだめだよー」なんて、至極真っ当な口ぶり。俺は大袈裟に天を仰いでから、言葉を吐き出す。
「イチルに言われたくなーい。イチルこそ遊びまくってるじゃん」
「ボクはいいの、だってちゃんと喋れるでしょ?」
 それにシラちゃんの器具だってちゃんと使ってるもん、と朗らかに笑う。俺たちのやり取りを聞いていたサントウも重々しくうなずいた。
「全くだ。俺はさっきから見てるだけなんだが」
 不満げに言われるので、イチルと顔を見合わせてから慰めにかかる。確かに、サントウの出番はまだだった。そんなやり取りをしていると、対象物を眺めていたニカから声がかかった。
「もう。三人とも、あんまり無駄話していないでよ。いくらあんまり人が来ないからって、三人とものんびりしすぎ」
「悪い」
 眉を下げ、大きな体を小さくして謝罪するサントウに、ニカは起こっているふりを解いた。やわらかな笑みを浮かべると、ほら御大の出番だよ、とサントウを促した。足早に進んで、ニカの隣に並ぶサントウを眺めていたら、イチルが俺の耳元に口を寄せる。
「サントはいいよねぇ。あれだけ急所わかってると」
「わざと外し放題だもんな」
 同意を示すと、ニカちゃんの治療も上手だもんねぇ、と返ってきた。俺とイチルは前の二人に追いついて、対象物へ目を向ける。
 サントウの刃の先は地面に磔にされた体の一部をえぐっている。切り刻まれてはいるが、決して致命傷は与えない。引きずり出された腸がぬらぬらと光り、かろうじてつながったまま残された指には、爪がない。さっきのイチルの仕掛けで、足は潰されているがニカの治療で血は止まっている。地面に広がる血液は、大きくあざやかな華だった。
「ねー、シラちゃんの新しい器具はなぁに?」
「じりじり首切る道具。すっぱりいかないように、刃をいつも見えるようにするの大変だったー」
 しゃべれなくなるから、喉は最後まで取っておかなくてはいけない。わかってるけど、新しい器具を作ったらすぐに試したくなるのが人情というものだろう。
 俺たち四人は、まだ情報を喋らない対象物を見ている。地面に這いつくばり、あざやかな華の上に横たわる影。見下ろしていたら、視線を感じたらしい。殺してくれと対象物が呻くから、気合いを入れ直した。全員わかっているんだろう。つぶやきに答えるようにして、サントウが言う。
「死にたくなってからが、本番だ」