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Note No.6

小説置場

まずは納得させてください

 死にたい、だなんて君が言うから僕は必死で懇願した。
「駄目。止めて。死なないでもうほんっとお願いします」
 手のひらを打ち、拝んだ。君はそっと唇を開くとどうして? と尋ねる。僕は姿勢をそのままにして、ちらりと君を見る。肩にかかりそうな髪は校則通りに二つしばり。髪は地色のままで真っ黒。唯一校則と違っているのは短いスカートだけ。ちょこんとのぞいた膝小僧が見える。いつもと変わらない顔をして、挨拶の延長みたいに、いたって当たり前の顔で死にたい、と言う君に僕は素直に答えた。
「だって、僕めちゃくちゃ苦しいよ。あれがいけなかったのかな、それともこっち、いやいやアレが原因かもって、悩み続けてぐちゃぐちゃになる」
 だから止めて、と真剣にお願いした。しばらくは拝んだポーズのままだったけど、何も返事がないから姿勢を戻した。君を見る。君はきゅっと唇を結んでいた。眉を寄せてにらむような顔をしている。机の下ではこぶしを、力の限りに握りしめているのかもしれない。
 僕はそういうものを見つめながら、ゆっくりと口を開く。心の底から、本当に思っている言葉を吐き出した。君が死んだ時のことを考えれば、ほとんど確信していること。
「毎日本当に気が重くて辛いから。だから、死ぬなら僕を納得させてからにしてよ」
 君は僕の言葉にすぐには答えなかった。小さく口を開き、息を吸って、吐いた。吐き出されるのは息だけで、言葉は形にならず、呼吸だけが繰り返される。寄った眉根は戻らない。震える声のかたまりを、君は絞り出す。
「……私が死んでも、悲しくない……?」
「悲しいよ」
 はっきりと答える。君の瞳が揺れる。真っ直ぐとその目を見据えて答える。そんなこと簡単だ。もしも君が死んだら、死んでしまったら何を思うかなんて考えなくたってわかる。
「絶対悲しい。ここにいてくれたら、て何度も思う。一緒に笑えたらよかった、楽しいことを出来たらよかった、ここにいてくれたら、て必ず思う」
 間違いじゃない。だって僕は、君のことが大好きだから。
 それなら――と君はつぶやくけど、続く言葉はなかった。それでも、聞きたい言葉がわかったような気がした。だから言う。きっと君はこれだけでわかってくれるのだと、僕は思っているから。
「生きて、なんて言えないんだ」
 なぜ? と君の瞳が問いかける。ただ澄み切って、答えだけを尋ねる色を浮かべている。吸い込まれそうな黒い輝きに、僕の唇はすんなり答えを紡いだ。
「だて、生きていくことの価値なんて一つも見つけられない」
 きっと僕は、君が死んでしまったらぐちゃぐちゃになって、苦しくて毎日後悔しているだろう。何もかもに君を思い出して、ここにいてくれたらいいのに、て狂おしく思い続けるだろう。だけど、生きていてと願えなかった。この先ずっと生きていった先にあるのが幸いなのだと、僕には決して言えないから。
 たぶん君は、僕の言いたいことを受け取った。余す所なく、この上もなく正しく。君の瞳が三日月形に細められる。唇が弧を描き、のどの奥でころころと笑い声を立てた。
「そうだね」
 同意する君の声は、何だかひどく甘かった。