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Note No.6

小説置場

重力なんて吹っ切れると思ってた

短編・SS

 何だって出来るような気がしちゃったんだよね、と道村が言った。横顔は、川面や橋の手すりを染めているのと同じ、夕焼け色だ。朱色よりもピンクがかっていて、何だか照れているようにも見える。俺はそれに気づかなかったふりをして、手すりの赤錆を見ながら答えた。
「空も飛べるんじゃないかって?」
 北海道に似てるなァ、と手すりの赤錆をいじっていたら、道村が答えた。あっけらかんとした、明るい空気で。さも当然のことみたいな顔をして。
「うん。飛べると思ってた」
「……だからって」
 やるなよ、と初めて全身をきちんと見た。右足骨折、左腕にひび、前身に擦り傷と痣だらけ。先日、校舎の2階から「フライト」した結果だった。元々突拍子がないとは思ってたけど、いきなり窓から飛び出すなんて誰が予想するか。
「でも、あの時確かにふわっていったんだ。俺、ちょっとだけ飛んだんだぜ」
 きらきらと、沈みゆく太陽よりも強い光を灯した目で言う。突拍子もないヤツだけど、道村は阿呆みたいに明るい人間だ。だから何かを悲観しての自殺なんてことは全然考えていなかった。だからこうして、理由を聞いたのだけど。予想を裏切るその答えに、俺は小さくつぶやいた。馬鹿、と言葉を落とす。
「アレは落下っていうんだよ」