Note No.6

小説置場

endless sleeping

 前から思ってたことがあるんだけど、と藤倉がやたら真剣な顔をして言うので、皆野は襟を正すような気分で見返した。演劇部のミーティングとして図書室に集まり、先輩からのお話を拝聴している真っ最中だ。一体、どんな重大な発言が飛び出るのか、とそれを待つ。藤倉は言った。
「眠り姫とか白雪姫の王子って迷惑じゃない?」
「……は?」
 思いの外強い声が出た。藤倉は「やだ皆川、声大きい。先輩に怒られるよ」とのたまう。誰の所為だよ、と思いつつ声を潜めて言った。
「前から何思ってたって?」
「だからー。眠り姫とか白雪姫の王子って迷惑だって話」
「……ごめん意味がわからない」
 友人であるはずの人間の思考についていけない。何かものすごい告白でもされると思って身構えていたこの感情をどこにやればいいのか。思っていると、藤倉は言葉を重ねる。
「えー皆川わかんないの?」
 九九出来ないの? と同じくらいのテンションで、理解出来ないことを責めるような響きでつぶやく。仕方ないなァ、と言うけれど、十中八九わからないだろう、と皆川は確信している。
「だって、起こしてくれなんて頼んでないし」
 勝手にキスして起こしてくとかマジ迷惑! と、小声で憤る。器用なヤツだな、と皆川は思う。
「ずっと眠ってたかったかもしれないじゃない?」
 面倒なことからは解放されて、ただ眠り続ける日々。それを望んでいなかっただなんて、言い切れないでしょ? 藤倉はきっぱりと言い放った。
「だから、ハッピーエンド扱いなのが疑問なのよねー」
 どうして目覚めさせちゃったのよ! ってブチキレたっていいと思う、と言う藤倉。永遠に眠り続ける安らかな日々が不幸だと、一体誰に言えるだろう、とその横顔が言っている。皆川はそれを数秒眺めてから、友人の名を呼んだ。
「藤倉、そんなの簡単でしょ」
「ん?」
「だって、お姫様にはハッピーエンドが約束されてるんだよ」
 彼女たちは幸福な童話の主人公だ。“幸せに暮らしました”“めでたし、めでたし”で終わることが義務づけられるように、必ずや幸せが約束されている。
「そりゃ、ソッコーで起きるでしょ」
 幸せになるのだとわかっているならば。未来の不安におののく必要など欠片もないのならば。目を覚まさずにいる道理など存在しないだろう。その言葉を聞いていた藤倉からは、一瞬表情が消えた。しかし、すぐににやり、という笑みを広げる。
「庶民とは違って?」
「そうそう。何せ姫だから」
 永遠の眠りなんて望まないんですよ、と言えば、藤倉はほころぶように笑う。