Note No.6

小説置場

2016-07-02から1日間の記事一覧

Birth in Heaven---rehearsal

自分のステージの確認を一通り終えた真穂は、舞台から下りた。少し気になる点があるというか、確認したい部分があったのだ。首を巡らせて照明を担当している先輩を探す。体育館の両脇には、数メートル上の部分に細い渡り廊下がある。そこからスポットライト…

Genesis---backstage

舞台袖から、感慨深げにステージを眺めている。今歌われているのは、数ある曲の中でも唯一二人によるものだ。それまでは一人だけのソロだったけれど、この歌だけは、二人がハーモニーを奏でる。人選で散々悩み、最終的にこの二人に落ち着いた。歌唱力に関し…

Backstage---2nd grade

あと三十分で幕が開く、という時間帯。最後の確認というわけで、映研部員は全員舞台裏に集まっていた。三年の先輩たちは、各自最終点検をしているし、一年生たちは映像器具の確認中だ。 自分たちの分のチェックが終わってしまった二年生たちは、手持ち無沙汰…

Four Signals---rehearsal

前回の実績のおかげで、体育館を通し稽古で使用出来ることになった。やらないよりはいいだろう、というわけで、放課後の体育館に映研部員が集合した。全ての窓と出入り口を締め切って、完全に極秘体制である。 一通りのステージを終えて、各自気になる部分の…

Euthanasia---meeting

音源は全員が知っていたので、後はどの歌を誰が担当するかを決めるだけだった。部長である理代子が、歌詞全てをコピーしたものを歌担当である8人へ配る。それ以外のスタッフである3人は、一部だけコピーされた紙を揃ってのぞき込んでいる。「ってわけで。一…

Starduster---backstage

細くて小さな体で、身を切るように歌う姿を見ている。 昇は注意深く音を聞きながら、音量のつまみに指をかけている。ステージに立つ人間のために、音源を流すのが主な仕事ではあるが、歌の最中に滞りなくステージが進むよう、常に気を配るのも昇の仕事だった…

Starduster

ゆっくりと中央まで進み出る。客席は、歩いてきた人間が誰なのかを知って小さくさざめいた。しかし、前奏が進むに連れ示し合わせたように口をつぐみ、辺りは静寂に包まれる。耳慣れた音楽を注意深く聴きながら、マイクを握った。大きく息を吸うと、最初の言…

Starduster---stand by

「うわーやっぱり丸嶋先輩の後って緊張するよー…」 舞台袖からステージを見ていた信一は、思わずこぼした。目の前ではスポットライトを浴びた僚河が、それはもう堂々とマイクを握って歌い上げているのだ。歌の上手さももちろんあるけれど、何というか一番ス…

Somewhere over the rainbow

川向うに沈んでいく夕日を眺めている。静かに揺れる草の音を聞きながら、朱色に染まる世界をただ目に映していた。俺の体も、この色に染め上げられているのだろう。いつかと同じように、世界に終わりを告げる太陽で、俺も、周囲の何もかもも、ただ一色に染ま…

Pure

いつもの面子でさんざんっぱら遊び倒した当麻は、久しぶりに家に帰った。修平の家に置いておいた着替えが、いい加減なくなったからである。着倒すにも汚れが目立ったし、洗濯するなんて頭はそもそもない。なくなったなら新しいものを取りに帰ればいい、と思…

Fairy song

持って来られた衣装を見て、真穂が黙り込んでいた。準備した道具が運び込まれている視聴覚室の中、立ち尽くす真穂を見つけた信一は、しばし固まった。特に何をしているというわけではないのだけれど、ただじっと衣装を見ている後輩を前にして、見なかったこ…

Costume---parallel

笑顔のままで固まった正仁を責められる人間は、恐らく誰もいないだろう。視聴覚室で一部始終を見ていた面々は、口にしないながらも同じ気持ちを共有していた。もっとも、正仁を固まらせた張本人である藤だけは除いて。「こんな感じなんですが!」 きらっきら…

Guitarist---parallel

放課後の教室に、ひょっこりと顔を出したのはみちるだった。「芦刈先輩」 最近はそこまであからさまに敬遠されることはない、と言っても、未だにどこか遠巻きにされている節はある。そんな中で、こうも簡単に声をかけてくるのは、小学校からの知り合いである…

Classic morning

朝起きて真っ先にすることは、布団を上げることだ。そのままにして学校へ行こうものなら、帰った時に何があるかわからない。家にはいつも祖父母がいるので、十中八九ばれてしまうのだ。 我が家は純和風建築なので、フローリングの部屋は多くない。精々居間く…

Delivery service

焦った声で電話があった。何でも、バイトで使うバンダナを洗濯したまま家に置いてきて、持って行くのを忘れてしまったらしい。いつもなら予備があるんだけど、今日は一斉にクリーニングに出してしまった後とかで、一枚もないのだと言う。心底困った様子だし…

Visitor

みちるちゃん、とやわらかな声で話しかけられる。甘えのような、おねだりのような、そういう声音で何を求めているかはわかるので、無視した。しかし、ものすごく諦めが悪くて決してめげないことを私はよく知っている。何せ、17年間一緒にいる訳で。「ねえ、…

Housework

帰ってきた私を見て、開口一番「げ、姉ちゃん」とか言ったので蹴りを入れておいた。まったく、人の顔を見て最初に言うことがそれか。「ヒデエ。暴力反対」「何回言っても制服脱ぎ散らかすようなやつに言われたくない」 脱皮した後のようになっている制服を拾…

Sponge cake

玄関の扉を開けると、甘い匂いに包まれた。「ただいま」と声をかけつつ、匂いの元である台所へ顔を出す。案の定、お兄ちゃんがオーブンの前で焼き具合を眺めていた。「今日は何作ってるの?」「おお、理代。帰ってたのか」 玄関の開いた音には気づいていなか…

Kaleidoscope

きらきらと光り輝くこのネオンを、ずっと昔から見ているような気がする。物心ついた時から、たぶんずっとこの光を知っているのだと思う。長い間、記憶の底でずっと光り続けているんだ。「―…はあっ」 指先に息を吐きかけて、ごしごしとこすった。最近では随分…

Euthanasia

じわじわと、蝕まれてゆく。 あの日の夢を見て、飛び起きた。一瞬自分がどこにいるのかわからなくなるけれど、すぐに見慣れた自分の部屋だということを理解する。どっどっ、と心臓の音が頭にこだましていた。いつの間にか息を止めていたらしく、苦しくなって…

In those days

「新入生来ますかねぇ?」「来ますかねぇ、って来てくれなきゃ困るんだけど」 藤の言葉に、苦笑しながら答えたのは理代子だ。正仁も穏やかな顔で「そうそう。せめて一人くらいは」とうなずいている。「一人でも有難いですけど――でもやっぱり、二人くらいは欲…

In those days---2nd grade

視聴覚室には、張り詰めた空気が流れている。いるのは二人だけで、椅子の端と端に座っている。奥の椅子に座っているのは、学ラン姿の少年だ。やや乱れた髪をしていて、所在なげな顔で下を向いている。入口に近い椅子には、髪を一つに結い上げた少女が座って…

In those days---3rd grade

唯一の三年生を送り出した後だった。 視聴覚室に帰ってきた理代子と正仁は、先輩のいなくなってしまった部室を眺める。元々人数の多い部活ではなかったから、一人いなくなった所であまり変わらないはずだった。三人が二人になった所で、人口密度が劇的に減る…

「エキストラ・スター」

あらすじ きっかけは、ヤンキーたちが視聴覚室に用が出来たことから。否応なく映研部員は巻き込まれ、不本意ながらも親交を結ぶ。ゴタゴタに関わるにつれ、互いの心の内に触れ、親しくなっていく。ヤンキーたちも映画に興味を持ち始め、映研部員もヤンキーた…

Trivial talk

「オレたち、きっとずっと前に会ってたんじゃね?」 真剣な顔で紡がれた言葉を、千歳はただぽかんとして眺めていた。無理もない。秀人が何やら眉間にしわを寄せて、真剣に考え込んでいたかと思うと告げられたのがそんな言葉だったのだ。今までの会話とは、ま…

冬日夜話

ぐるぐるに巻いたマフラーに埋もれるような格好で、大貴は境内を歩いていた。辺りは溢れるような人だかりで、目的の人物を探すことは中々に難しい。それでも諦めて帰ってしまうわけには行かなかったし、どこにいるか検討がつかないわけでもなかった。大貴は…

美しい罪

きっとこの温もりを忘れられないことが、 生まれた時から言い聞かされてきたことだったから、何の疑いもなく受け入れていた。村の人たちが畑を耕すことに何の疑問も抱かないように、商人が算盤を弾くことを不思議がらないように。私にとってそれは至極当然な…

諸刃

この人の強さは、同じくらいに脆い。 ぎゅ、ぎゅ、と包帯を巻いている。あんまり上手く出来なくて曲がってしまったけど、何も言わないでしたいようにさせてくれている。ぐるぐる、白い包帯だけを見つめながら、頭の中には色んな言葉が渦巻いていた。「…大貴…

見知らぬ視線

前置きはしていた。自分でも何を言いたいのか、はっきりとわかっていたわけではなかったから、支離滅裂になるんじゃないかと思っていた。自分なりに理論的に話すつもりではあったけれど、結局の所何が言いたいのかわからない、という点は揺るぎない。だから…

腹が減ったとわめくから、適当に何かを出してやることにした。別に苦労じゃないし、大体冷蔵庫には食材が入っているし、マトモな食材は全部俺のバイト代から出ているんだから問題はないだろう。 それに、ちょっとしたお題でも出されているような気分でわりと…