Note No.6

小説置場

短編・SS

Call your name

君の名前を呼ぶ夢を見た。 廊下をすれ違う。ちょっとだけ顔見知り、でもたったそれだけのあの子は、軽く頭を下げる。俺は今しがた気づいたみたいな顔をして、のったりと首を動かした。 それでおしまい。あの子はすぐさま、隣にいた友人へと視線を向ける。俺…

いつか僕は死んでしまうだろう。 酷く綺麗な顔で、あなたは笑った。きらきら、と降り注ぐ光が全部あなたに集まっているみたいだった。だから私はまぶしくて、目を眇めてあなたを見ていた。そうしたら、あなたはやはり笑って、おっとりとした声で「まぶしいの…

だって何も残らない

夢を見ていた気がする。ずっと、ずっと深く、長い夢を。 目が覚めた時に見えたのは、薄暗い板張りの天井。まだ日は昇っていないらしく、部屋中に暗闇が残っている。手探りで目覚まし時計を探したけれど、中々見つからなくて諦めた。(ゆめを、) ぼんやりと…

いのちのうた

とても不思議でならないことがあるのです。 ブランコを漕いでいる。きいきいと軋む音だけが響いていて、誰もいない公園はひっそりとしていた。四月になったとは言っても、夕暮れはまだ肌寒い。もう少し厚着をしてくればよかったかなぁ、と思わないわけでもな…

つなぐ

駅前のコーヒーチェーン店に入って、ココアを頼んだ。相変わらずコーヒーは苦くて飲めない。大人になったらきっとコーヒーなんて簡単に飲めると思っていたのに、そんなことはなかった。未だに好きなのはオレンジジュースとかココアで、要するに甘いものだ。…

立っている

何もかもを恨んでしまえたら楽だったのに、と知っていた。 中々来ない電車をホームで待ちながら、ぼんやりと考えている。しっかりと整列乗車すべく指示された位置に立つ。随分前に高架になったホームからは、駅前の様子が見えている。大きな広告の隙間から見…

それですべて

手のひらからはみんなこぼれていってしまったから、もうここには何もないのです。掴んでいたと思っていたはずのものは、みんな消えてしまいました。全部わたしの手の中からなくなってしまったんです。「それですべて?」 そうです。わたしには何もないのです…

Freely and actively

至って普通の顔でトランプを出しながら「そういえば」と口を開いたのはマサヒロだった。「そういえば、今度の終業式どうするよ?」という声にかぶるように、タムは「よん!」と叫びながらトランプの山に札をくわえる。「……やっぱり時期的に肝試しとかいいん…

ひかり、ちる

しゃわしゃとホースから水を出しながら、周りの草木に水を蒔く。麦わら帽子の下の顔は、この暑さにも関わらずまったく焼けることはない。それどころか、彼の顔や手足、腕だけは降り積もった雪のように白く澄んでいた。「あ、こんにちはー!」 しかし、弾ける…

白い華+火葬前夜祭

あなたのために花を摘もう。月に照らされた花の群れの中で、一際輝く白い花がいい。明日には雲となり星となるあなたには、それが一番ふさわしい。 静かに草の海に入り、畝を進んで美しい花を選ぶ。大輪の花がいいけれど、大きすぎてはいけない。重くて垂れ下…

祈り方なんて疾うに忘れてしまいました

黒い傘を差しながら、小太郎はぼんやりと空を見上げている。重い雲から落ちてくる雨粒は、顔にあたって跳ね返り、アスファルトへと落ちていく。小太郎はただ無言で雨を受けている。このままだとぐしょぐしょになるのだと知っていたけれど、それは今さらだろ…

Hello, my world!

「準備は出来たかい?」 突然ノエルが扉を開けて入ってきたので、アークは慌てて席を立った。封筒は背中に隠し、「勝手に入るなって!」と言いながら廊下へ押し戻す。どさくさに紛れて封筒をポケットに入れてから、自分もノエルに続いて廊下へ出る。階段を下…

Dream a night!

長くて急な石段を登り、大きな門構えの神社正面に辿り着く。細かい彫りが施された賽銭箱の横手に、なだらかな石段があることに気づいた。こっちの方が楽だったよなぁ、と思いながら賽銭箱を丹念に見ている竜彦とミーコさんへ視線をやると、竜彦が熱心にミー…

さよなら、マイヒーロー

こわいゆめ を みた よ 目を開いて見えるのは暗い天井だった。続いて聞こえる荒い呼吸音が自分のものだと気づいて、思わず自嘲の笑みが浮かぶ。案の定、ぐっしょりと汗をかいていて気持ちが悪い。 起き上がり、前髪をかきあげる。大きく深呼吸をして呼吸をと…

オリオンの使者

草の間に座り込み、膝を抱えている。遠くで車が通り過ぎていって、ヘッドライトが暗闇を切り裂いて移動する。眩しい光に目がくらみ、そんなに近い場所ではないのにこんな風に射すくめられるとは、光速って伊達じゃないな、とぼんやりと考えていた。 空を見上…

ひこうきぐも の ゆくえ

濡れたアスファルトの上を歩く。さっきまで降っていた雨は上がり、嘘のように晴れている。雲は多少残っているけど、それくらいで丁度いい。これで雲もどっかに行ってしまったら太陽が常に直で出ていることになる。それは避けたい。今日は一日中雨だと思った…

ヒナコさんといっしょ。

わたしの傍には、いつもヒナコさんがいる。 より正確に言うならば、傍というのは左肩の後ろだし、いるとは言っても明確に見たことはないから、いるのだろう、とかもしかしたらいるのかも、とかそういうレベルだ。わたしや、わたしの周りの人間――家族、友人、…

Blink and you miss it

認めるのは、そんなに辛いこと? 君は、と言うとあなたは笑った。細められた瞳は濡れるようにきらきらしていて、唇からのぞいた白い歯が眩しかった。はにかむようにも見えたし、泣いてしまうようにも見えた。わたしが何かを言うよりもはやく、あなたは続ける…